4.アイケルス
金眼、赤眼のオッドアイに悲しみを加えて、半分まで瞼を落とした。
もうこの土地で何年過ごしているのだろう。
境界の化け物であるカ-ミラに紹介され、すでに何十年か分かっていない。それどころか、外の様子も分からない。全てを覆い隠すような闇は、周囲の木々に当たっては溶かしていた。
世界の基盤。
世界の裏側。
世界の闇。
それが、今アイケルスの周囲を取り囲んでいる闇だ。
動植物は生きていけない空間。動物は腐り果て、植物は朽ち果てる。
赤黒くねちゃねちゃとしたものが、辺り構わずへばりついていた。
「ハァハァ」
白のドレスを着た金髪の女性が、片腕を押さえた状態で立っていた。
「もう無理よ……。もう無理なのよ」
『もう少し、あと少しだけ、お願い』
「もう無理なのよ!」
カーミラが叫んだ。目尻に涙をいっぱいに溜めて、アイケルスを睨んでいる。アイケルスはそんなカーミラを慈愛と悲哀、そして申し訳なさそうな目で見ていた。
アイケルスは不安定な状態になりながらも想い人を待ち続ける。それだけが心残り。それだけがやりたいこと。
カーミラの封印と結界はもう寿命を迎えている。今はカーミラの力で無理をして保っているだけなのだ。何もない時はずっと寝て、体力と魔力を温存している。それでもキツイぐらいなのだ。
アイケルスの想い人であるコストイラはもうすぐそこまで来ている。あと少し保てばコストイラに会える。そこまでは生きたい。
例え、その後に惨たらしく死んだとしても。見世物にされたりしたとしても。死が確定されたとしても絶対に会いたい。
「あと少しだけよ。私の力でも、もうキツイからね」
『……ありがとう』
語気を強めて言うカーミラに、アイケルスは少し微笑んだ。




