1.サヒミサセイ
女はただ一つ血を吐いた。そのまますべてを吐き出すように、ぜーぜーと息している。
いつぞやの町では三分間の魔女などと揶揄されていたが、今はその三分間すら持たない。一分すら限界になっていた。
今は限界まで動かなかったとしても、体は痛いし、口は粘着いてしまう。いくら口をゆすいでも粘着きは消えないし、鉄の味はなくならない。
口臭も臭い。歯を何日も磨いていないそれではなく、れっきとした死臭だ。
最近のサヒミサセイは、力が抜けてしまうため、宿に戻ってもベッドに辿り着く前に倒れてしまう。
今もそんな状態だ。扉を閉じた時、そのまま戸に凭れて座り込んだ。ゼーゼーハーハーと肩で息している。
ブルブルと震える手を持ち上げ、自身の左手を見る。皮膚が収縮していて、皺だらけ。そして、皮膚は罅割れていた。その隙間から淡く発光する赤い肉。もはや人間には見えない。
「……コストイラ」
すでに死期から三か月は経過している。いつ死んでもおかしくない。それでももう一度コストイラに会いたい。そんな執念が、彼女を生かしていた。後どれくらいで会えるのか。そんなことを思いながら、意識を落としていった。
「っ!?」
翌日、痛みで目覚めた。包帯を巻くのを忘れていたようだ。火傷や癌の痛々しい皮膚に風が当たったらしい。もはや痛風を患っているのでは、と思える。
痛みを発する左手を見る。サヒミサセイは目を見張った。
いつも通りの黒く翳った焦げた茶色の手だ。しかし、指が五本ではなく七本ある。
中指が中央からパックリと割れ、二つとなり、その間から新たな中指が生えている。
新しい中指はピカピカで、長年見慣れた色ではない。もう見ることはないと思っていた元の肌色だ。
おそるおそるピカピカな中指に触れる。感触がある。そして押される感覚もある。つまり、この指は神経があるということだ。
これは本物の指だ。
分かれた指にも触れてみる。こちら側には感覚がない。カサカサの皺だらけの役目を終えた皮の感触だ。
試しに引き千切ってみた。七本の指が六本になっても痛みがない。
いったいこれは。




