42.後始末
ギリギリとぎこちなさそうに鬼の左手が動く。
「うむ」
獣に左肩の筋肉を食い千切られてしまったため、うまく動いてくれない。
鬼は微妙な顔をして左手を眺め、そして隣の少女を横目で見た。
「ぐす、も、も、申じ訳、ぐす、あ、あ、えぐ、ありま、ぐず、ふぇええん」
駄目だ。泣き出してしまった。
「くそ! オレァシロガネの世話をするのに、山を三つ、谷を二つ壊した業績を持ってんだぞ!? 涙を流すか弱い人間の女なんてどうすりゃいいんだよ!」
「それは業績ではねぇだろ。やらかしの記録じゃねぇか」
「や、山三つ」
泣きじゃくるエンドローゼの隣で、鬼は頭を抱えてしまった。その言い分に、コストイラが頭を叩き、アレンがドン引きした。
「そういうお前も大概な姿をしているぞ?」
壊人が凡人を見ると、絶人の上に座らされていた。
先程、ヘッドスライディングをしたことで、肘と額を擦ってしまった。それを見たシキとエンドローゼがプッツンしてしまった。
エンドローゼの方は大した傷ではない、魔法でなくていい、自然に治る等の言葉を使い、交渉することで諫めることに成功した。
しかし、シキは駄目だった。その頑なさは目を張るものがあった。要塞のような硬さを持つ意志の前に、アレン他連合軍は敗北した。
その後、様々な交渉を経て、もう逃げられないことは前提として、落としどころを探った。
意外だったのは、妙にアレンとシキをくっつけようとしているアストロとエンドローゼも、その妥協点探しを手伝ってくれたことだ。しかも主導してくれた。
普段からよく話す相手だからなのか、シキは素直に聞いた。もちろん、譲れない部分を一切譲らずに。
その結果至った結論が、アレンを膝の上に置く、だ。
アレンは物凄く嫌そう、もとい恥ずかしそうにしながら受け入れた。もうこれ以上の要求が無理だと悟ったのだ。
「な、なぁ、いい加減この娘は何で泣いているのだ」
レイベルスが本格的に困り始めてしまう。近くにいたアストロは鬼に半眼を向けた。
「よかったわね。泣く理由がそれで」
「な、なんだ?」
「自分の無力さを嘆いているだけよ。貴方の肩御完全に回復できなかったことに対して、ただ悲しんでいるのよ」
「……オレは何をすればいいのだ? この娘が泣き止むには」
「無理よ。貴方が何を言っても、こんな自分に気を遣わせてしまっている、と思ってしまうわ」
「八方塞がりじゃねぇか」
勇者一行一の理解者の言葉を聞いて、鬼は再び頭を構えた。
「ま、まぁいい。いずれ泣き止むんだろう。で? お前等はこの後、どーすんだ? オレは少し休んだら、別の友人のところに行こうと思っている」
「オレ達は特に決めているわけじゃねぇけど、今は魔大陸に向かっているところだ」
「魔大陸? ならあっちだな。でも、何だってこんな危ない方の道を選んだんだ?」
「え、危ない方?」
レイベルスは目を丸くしながら、先へと指を差した。コストイラは眉根を寄せた。
「この道は確かに魔大陸に続いているが、数ある道の中でも過酷を紡ぐ道とされている。レベルが700を超えていても命を落とすのが当たり前と言われている道だぞ」
何だ、知らなかったのか、と鬼が言っているが、耳に入ってこない。
えぇ~~~? 危ない道を案内したのか、フォン?
次回からはちょっとしたお話し。本編はそこまで動きません。




