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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
32.次元の狭間
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36.異世界人

 ヴェスタが本気で何度も剣を振るっているが、どうしても対処されてしまう。


「くそ! 僕は正義だ。正義の味方なんだ! なのに、どうして、ここまで粘るんだよ!」


 唾を飛ばしながら訴えるヴェスタに、コストイラは、またか、と思った。以前戦った時にも英雄がどうとか言っていた。


「くそ! 僕は転生者なんだ! 主人公なんだぞ! ここで勝つに決まってんだよ!」


 その時、アストロの脳に源流が走ったような気がした。アストロは俯きながら、自身の顎に手を添えて考える。


 正義、英雄、異世界転生、主人公。


 そこでピンときた。もしかして、相手の名前は。


「……アンドウケイイチ?」


「何?」


 アストロの呟きを、最も近くにいたレイドが聞き取る。

 その名に聞き覚えがない。それが誰なのか聞こうとした時、一番に反応したのはヴェスタ本人だった。


「何でその名前を知っている!?」


「……四代目勇者<異世界人>ゴートとその周囲にいた人達との間で行われた会話を纏めた書物、『愚菅』に書かれていたわ。正義を振りかざすだけ振りかざして、ヒーローにはなれない悲しきモンスターだってね」


「ハァア!?」


 ヴェスタが切れた。コストイラから視線を切り、アストロを殺そうと走り出した。


「行かせるかよ!」


 行く手をコストイラが塞ぐ。


「僕が正義だ! 訂正しろ! だからこそ、この地に呼ばれたのだ!」


「それについてのゴートの見解はこうよ。元の世界でどうでもいい存在だったからこそ、転移、転生ができた、と」


「……は?」


「元の世界で全くの根無し草だったからこそ、転移転生ができるのだ、ともね」


「なに、言っているんだ? 世界を救うのが転生者だろ?」


 ヴェスタの目が血走り、泳ぎまくっている。


 アストロはまだ言い詰める。


「神は万能であっても全能ではないわ。だからこその転生者。世界の均衡を保つための知恵、そして贄だって。だからこそゴートは何も成し遂げられなかった。そう書いてあったわ」


「嘘だ! 僕は選ばれた人間なんだ! 英雄なんだよ!」


「もしそうならよぉ」


 ヴェスタを止めるコストイラが、冷めた目で自称英雄を見つめる。


「もっと強い状態で連れてこられるんじゃあねェの?」


「クッソ!!」


 痛いところを突かれたヴェスタが左腕を大きく振るい、コストイラの肩甲骨を叩く。


「チ」


 痛みに舌打ちをしながらヴェスタの腹に膝を叩き込んだ。


 ヴェスタは腹を押さえながら、コストイラから距離を取った。


 勝てない。


 ヴェスタは悟った。だからこそ、やるべきことを見定めるのだ。

 ヴェスタが光り輝き始める。コストイラが警戒する中、ヴェスタが距離をさらに取った。ヴェスタの剣だけではなく、体全身が虹色の光に包まれた。

 そして、剣の刃を首に当てた。


「は?」


「何?」


「自、殺?」


 あまりにも不可思議な行動に、コストイラやアストロは目を丸くして動きを止め、エンドローゼに至っては怒りが滲んでいた。


「な、な、何を! して!」


「辞めないさ。あぁ、止まらないさ、僕は! 何と言っても、僕は選ばれた人間だからね!」


 目は血走ったまま、舌に乗る調べは狂気性を孕み、その顔は薄ら笑っている。その異常に当てられ、勇者一行は動けない。


 ヴェスタの輝きが最高潮に達した時、彼は自身の首を切った。


 笑みを浮かべる頭が地面をバウンドした瞬間、空中に止まった。


「え?」


「何だ?」


 見たことのない現象に、目を剥く。その頭がゆっくりと地面に着き、潰れた。否、沈んでいった。


「なに?」


「地面に、沈んだ?」


 アストロが穴を覗いた途端、背筋が凍った。目の前の『それ』に対して、理性を手放さないようにするのでやっとだ。

 次元の狭間に現れた唐突な大空間。

 それを埋め尽くすように配置された四肢を持つ『それ』。

 そうまでしてようやく収まるサイズの大巨躯が、そこに鎮座していた。

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