33.幻想の竜王
空気が重い。
何かよく分からない物質が漂っているようで、精神的な部分も多くあるが、物理的にも重い。どこか水の中を進んでいるような印象を受ける。
薄気味悪い道を進む。
少し靄がかっている道であるため、このように体が重いのかもしれない。この靄を抜ければ、体の調子が戻るのだろう。
その希望を胸に歩いていると、靄に相手のシルエットが浮かんだ。明らかに地を這うものだ。
出てきたのはグレートドラゴン、エイルドラゴン、フレアドラゴン、そしてカオスドラゴン。どれもこれも超一級のドラゴン達だ。
一体ずつであるならばなんとかなる相手ばかりなのだが、四体となると話は別だ。相手できるできないというよりも、まず無理だ。
「どうする。普通にヤバいぞ」
「この体の不調的には余計に無理ね」
「足止めする?」
「辞めて。無駄死にするわよ」
ドラゴン達は様子を窺っている。いきなり襲い掛かってくるようなことはしないらしい。
勇者一行が少しずつ後ろに下がり、距離を取っていく。フレアドラゴンやカオスドラゴンはじっと見つめたまま止まっている。エイルドラゴンも首を下ろし、目線が近づいてこちらを見ている。
まだ何もしていない。まだ何もしてこない。
異様な緊張感に包まれる。心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
そこでグレートドラゴンが本性を現した。大きく口を開き、勇者一行全員を飲み込もうとしてくる。
「くそ! ここで全員の相手を!」
「無茶すぎるわよ!」
「だからってやらねぇ理由にゃなんねぇぜ」
「ん」
「「ア!!」」
アストロとコストイラが互に言い争っていると、その隙を縫ってシキがグレートドラゴンの口の中に入っていった。
巨大地竜の口内が爆発する。そこで進軍が止まった。同時にシキが口内に消えた。
「シキさん!?」
アレンが声を上げるが、シキが敵の体内に行くことなどいつものことだ。アストロ達が別に焦ることはない。
その時、カオスドラゴンが動いた。口の中に魔素が集まっていく。ブレスの兆候だ。
阻止しようと魔力を練ると、カオスドラゴンの前にエイルドラゴンとフレアドラゴンが立ち塞がった。上手く狙えない。
カオスドラゴンがブレスを放つ。レイドが全員の前に立ち、白銀色の透き通るような楯を前に出した。
ゴボン!! と楯とブレスがぶつかる。真正面からもらわぬように斜めにして受けたにもかかわらず、腕がメリメリと悲鳴を上げている。
バツン!! とおおよそ人体から聞こえるべきではない音が響いた。レイドの腕が弾けた音だ。アストロと違い、腕がぶらぶらとくっついている状態だ。
とはいえ、防いだ。次の攻撃をコストイラやアシドが防げればいい。
しかし、その考えが甘かった。
「かかったな!」
人の声が聞こえた。カオスドラゴンの上に誰かが乗っている。
一瞬では誰かが分からなかったが、一つ目という特徴を見て思い出した。あれは五重塔最上階にいたフェリップだ。
フェリップは瞳を金色に輝かせてコストイラ達を見ている。
フェリップの手には綺麗な青色をした、角ばった鉱石が握られていた。
「アレは秘封石?」
「気付いたってもう遅い!」
フェリップはカオスドラゴンの口内へと秘封石を放り込んだ。カオスドラゴンが秘封石を噛み砕くと、中から魔素が奔流し、ブレスに十分な量が確保された。
この状態はマズイ。レイドの腕が回復しきっていない。カオスドラゴンのブレスを受け切れる者がいない。
「すべてはイーラ様のために!」
両手を天へと翳し、万歳の体勢で神に叫ぶ。
どうやら、少し見ない間にフェリップはマーエン教の狂信者になっていたらしい。
カオスドラゴンがブレスを放った。
「やべ」
間に合わない。もう喰らうしかない。
コストイラが異常な速度で命を失う覚悟をする。
ドォン! 爆発。




