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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
27.川の流れ着く先
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2.谷間に入る河

 歩いていると、少し傾斜がついてきた。角度がかなり緩やかで、アレンは気付いていない。とはいえ、川がサラサラ流れているため、傾斜があるのは当たり前だ。


 スタスタと歩く勇者一行の元に魔物があまり来ない。そのことに少し苛立つものを覚えているコストイラに、アストロも頬を掻いた。


「何で魔物がいないんだ?」


「いないに越したことはないですからね」


「まぁ、そうなんだけどさ」


 未だに凡人の域を出ないアレンは、やはり魔物との遭遇を嫌っている。コストイラは理解できないが、納得しようとした。


「いつの間にか崖が出現しているんですけど」


「50m手前、この道は下り始めてこうなった」


「あ、そうなんですか?」


 シキの的確な言葉にアレンが軽く答える。


「まぁ、川が下っているんだし、いいんじゃねぇの?」


「違うわ。何か上から降ってきそうじゃない?」


「あ~~、成る程」


「上にいる」


 アストロが自身の不安を口にすると、コストイラとシキは上を向き、さらりと重要なことを言った。

 その直後、上から騎士が降ってきた。相当な重量があるのか、着地の余波に体が浮いた。


「……これ私のせいかな?」


「……いや、違うんじゃない?」


 アストロが皆の顔を見る。コストイラがジト目のまま答えた。

 黒鎧の騎士は足の痺れが引くのを待ち、そこから大剣を振るった。





 本格的な調査が始まって一月、二月と時間が過ぎていく。

 一歩として犯人に近づいている気がしない。すでに被害があったとされる12の場所の検証も被害者の証言も終わっている。もうこれ以上詰めることができない。


 警邏の者達は頭を抱えてしまった。これは警邏の威信だけでなく、任命した国王の能にまで関わってしまう。


「お前等。絶対犯人の尻尾を掴むぞ」


「はい!」


 勢いのいい返答をする部下達にも内心頭を抱えてしまう。約三か月前からこの調子なのだ。結局何の成果もあげられていない。


 そして、それは今回も……。





 犯人が捕らえられないことは、国王への不満になる。その不満を口にするのは、いつだって有権者であり、政府が無視できない存在だ。

 国に回る経済の数%を担う大物さえ声を上げる。


 国王パルテナ・キュロス3世はその不平不満の声を背に、肩を怒らせて歩いていく。国王の燃え上がる怒りは肩だけでなく、足音にも反映されていた。

 周りを囲う護衛の兵や文官も内心震えていた。この怒りが我々に向かないことを、と皆が願った。


 その祈りが神の届いたのかは定かではないが、国王の怒りは警邏に向いているままだった。


 12の事件が発覚してから、王ないし国が立ち上がって、すでに二年が経過していた。熱の冷めぬ有権者達にも驚きだが、ここまで一切姿を現さない犯人にも驚愕だ。


 国王は警邏達の頭脳的役割を担う司令部に乗り込む。


「こら、あぁ!?」


 怒りのままに扉を開けたため、中の積まれていた大量の資料が倒壊した。在中している警邏司令部員がフラフラと資料を直し始めた。


「お、お、おぉ! お久し振りにございます、国王パルテナ・キュロス3世様」


 部員の一人が前に出たかと思おうと、恭しく腰を負った。頭が予想よりも重かったのか、ふらついてしまった。


「おっとと」


「……大丈夫か?」


「へへ。重力とはこんなにも大きかったのですね。王よ」


「冗談を言っている場合……ん? 其方、まさか、ティエリ・パラレルか?」


「へ? はい。そうでございますよ」


 ティエリ・パラレルは齢35の侯爵だ。そして、第一王子と親しいということもあり、王への評価は高く仲が良い。しかし、あの時のティエリはもう少し肉突きがよく、そして、顔色が解かったはずだ。

 現在の彼は隈がすごく厚く、頬はこけ、服はボロボロであった。浮浪者だと紹介されれば、素直に信じてしまうだろう。

 手入れのされていない髪を掻き、雲脂を舞わせながら、真っ直ぐ国王を見る。


「王よ。どのような要件にございましょう?」


「あ、あぁ。爆弾魔のことだ」


「申し訳ございません。我々も全力も全力。120%の力をつぎ込んでいるのですが、どうにも難航しておりまして」


「それはこの惨状を見れば想像できる難航の原因は何だ。何がそこまで難解にしている」


 ティエリが自身の伸び切った顎髭に触れながら考える。事件解決がまだ果たされていない一番の原因。それは。


「犯人の狙い、目的。それが分からないことでしょうな」


「目的だと?」


 国王が眉根を寄せた。警邏部隊司令部長は唇を湿らせた。


「はい、目的です。今、犯人が犯行に及んでいないのは、顔を見られたからだと考えられます」


「目的を達した可能性は?」


「限りなくないでしょうな」


「なぜそう言い切れる」


 ほとんどの者が委縮してしまう王の威圧を前にしても、ティエリは調子を崩さない。


「威力ですな」


「威力?」


「えぇ、はい。人を殺せるほどにまで改造しているにも関わらず、いまだ死者の被害は一。おかしい気がしております」


「まだ続く、と」


「でしょうなぁ」


 有力な手掛かりのないまま進む会議。この日、国王達の気付かないうちに郵便物が郊外に届いた。そして、死者の総数は一から三に。

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