19．有資格者達の宴
突っ込んだ岩に背を凭れさせながら、思考を回す。あの小さな体でこの絶大なパワー。普通なら有り得ないことだが、自身の肉体に魔力を流し、強化してくると結論付けた。
すぐさま背を剥がし、立ち上がる。この少女以外は剣技と魔術で何とかなる。しかし、少女はそれだけでは勝てる確信が持てない。
男がそっと自身の左目に触れる。これで潰すか？ しかし、これは切り札。もしもの時のために取っておこう。
シキが一気に肉薄し、ナイフを振るった。男は薄皮一枚分のギリギリで躱し、大剣を振るう。
大剣と岩に挟まれ、シキの逃走経路を絞らせる。上でも下でも競り合いでも魔術で吹っ飛ばす。
その男の考えを否定するように、シキが前に出る。男の目が丸くなる。もう攻撃が届く。魔術も剣技も間に合わない。
シキのナイフで胸で受け止める。分厚い筋肉で何とか受け止めて反撃に移ろうとするが、ナイフの刃は筋肉で止まることなく、180㎝の刃渡りが体内に侵入してくる。
何とか致命傷を避けたが、致命傷級の怪我であることは免れない。
後ろに倒れそうになる体を押し止め、シキの頭を掴む。これ以上何かをされると困るため、距離を作ることを優先した。
アシドとコストイラが復活し、戻ってくる。男は剣技のみで槍と刀を捌ききる。
しかし、コストイラの体術は防げなかった。腹を蹴られた男が全員から距離をとる。
男が剣に炎を纏わせて大きく振るう。コストイラの炎とは違う、殺すための炎。
一振りで槍持ちを吹き飛ばし、もう一振りで刀持ちも吹き飛ばす。後衛に対しては一気に詰める。間にレイドが入り、楯で防ぐ。剣を振るい、楯ごと吹っ飛ばそうとするが、レイドは耐えきった。
次の技に移行しようとした時、シキが乱入してきた。
楯から剣を剥がし、シキに向かって振るった。シキはその下に潜り、懐に入り込む。
男は膝を繰り出し、動きを止めようとする。シキは小さく後方回転して、出された足を両足で挟む。バク転したまま、足を引っ張り上げる。
男はバランスを崩し、前転で頭を守る。立ち上げる前にシキを睨む。
シキはすでに目の前に迫っていた。
そこで男は切り札を切る。
男は残された左目を失う覚悟とともに、ランダム性の強いビームを放った。手を伸ばせば届く距離から放たれたビームを、シキは見てから躱した。
男は目を丸くした。この距離でこの速さの攻撃を避けることが可能なのか？
これで左目を失った。すでに右目の視力もない。もう両目ともに視覚が存在しない。
盲目になったばかりで、他の感覚は凡人並みだ。レベルに見合わない状態に陥った。しかも、そのリスクを負ったにもかかわらず、躱されてしまった。
こいつらは強い。確実に強い。もしかしたら、敵を討ってくれるかもしれない。
魔力探知で位置をぼんやりと感じながら、ナイフにおいて致命傷を受けた。
ロンフォース・アーガテル・バンツウォレイン国王は忙しい。そのため数多く寄せられる書のすべてに目を通すことができない。部下数名が目を通した後、必要なもののみを国王に通す。
グロレウス・パタロリア宰相は一枚の報告書に目を通した。
チェシバルでの獣害について。
チェシバルの街で起きた獣害事件は終わっていない。グロレウスは終わったと判断し、その結果を是と判断した。
だからこそ、終わっていないこの事件は、地元民で終わらせるしかない。
シキはメントモールが執った。親友のメティスケントンは復讐に燃えており、指揮者には向いていない。娘のジーユーコマメイの仇を討つために、猟の隊長となった。
森に常駐している猟師も参加し、何度も森に入っていった。
見つからない。
苛立つメティスケントンの肩をメントモールが叩く。絶対見つけてやるという目をしているメントモールに、復讐者は安心する。自分だけじゃない。
森の猟師は犬の頭を撫でながら、褒美をあげている。犬が硬めのクッキーをガジガジと噛んでいる間に、指揮者達を見た。
「私の相棒はベートを見つけられなかった。済まない」
「構わんさ。最終的に俺達の手で殺せればいい」
翌週、討伐隊は西側の森の中でベートと遭遇できた。
森の猟師が魔術を銃のようにして撃ち出す魔道具を構える。放った一発をベートは避けきれなかった。しかし、食らったのは腹にもかかわらず、絶命に至らない。
血が腹の毛に滲む程度で、動きを縛れない。足の速度は少し遅くなったが、その程度では捕まえられない。
メティスケントンは怒りに任せて魔道具を発砲させた。ベートは3発ほど躱した後、首に命中した。気管の一部が引き千切れたかもしれない。
ベートは立ち向かうことなく、逃げに徹した。何度も横に逸れながら去っていく。
メティスケントンや森の猟師をはじめとする討伐隊が全員で発砲する。この魔道具にはかなりのお金がかかっている。
倒せなかった時の損失が大きい。メントモールが祈る中、ベートは見事逃げ切った。
