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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
22.月の都
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11.故郷の星が映る海

 郷愁。故郷から離れたところにおいて、故郷を懐かしく思うこと。郷愁を感じるのは故郷に関連するものを見聞きしたタイミングだ。故郷の特産品や題材にした劇を見た時などに起こる感情の一つ。


 似たような言葉に、ホームシックというものがある。


 ホームシックは長く住んだ土地から離れた者が、その地を病的な程に思い、寂しがり、恋しがる状態のこと。何かを見ていない時にさえ、ふと寂しがることがある。ホームシックにシックがあるとおり、病の一つだ。


『キュオーン』


 ネイビーブルーが啼いた。


 その瞳には青い星が見える。それは多くの生物が暮らし、様々な種類の生き物が生きる星。そして、このネイビーブルーも暮らしていた星。


 その昔、このネイビーブルー(以降NBBと呼ぶ)は、シキ達のいた星に住んでいた。なんやかんやあって月に来た。

 そう、なんやかんやあって、だ。何が起きたのか一切把握していない。最後の記憶は戦争をしていたことだ。ナンバエッタ教のNBBは、クロゴロ教との宗教戦争を行っていた。それがすべてだった。


 魔術を浴びて、次に目を覚ました時、すでに月にいた。身体は巨大になっており、魔物になっていた。


 もう戻れない。過去には戻れない。身体も戻らない。もう、何もかもが手遅れだ。


 NBBはもう啼くことしかできない。


 だから今日も啼く。ただ、故郷の星を見て、啼く。


『キュオーーン』


 NBBが再び啼く。


 アレン達が腰を低くして様子を見守る。NBBは何かするわけでもなく、ただ宙を見守る。


「横、通れるか?」


「海から出てこないなら、行けるかもしれないけど、陸に出てこれるなら危険じゃない?」


「オレが先頭かな?」


 コストイラが身を低くしながら、刀を少しだけ抜いておく。


 ゆっくりと歩くコストイラの前で、NBBは動かない。緊張で唾が飲めない。


『キュオーーン』


 急にNBBが啼く。アレンの心臓が飛び出しそうになる。

 バレたかと思ったが、違う。先程からNBBのしている行動は、常に一つ。懐郷の思いを声に乗せて啼いている。それだけだ。


 コストイラが横を抜け切る。気付かれていない? それとも相手にされていない? どちらにせよ、平気なことに変わりない。


 コストイラが手を招く。アレン達が追って、NBBの後ろを通る。


『キュオーーン』


 哀しげな声だ。いったい何を悲しんでいるのだろう。


 アレンがNBBの視線の先を見る。そこには青い星があった。その星が何の星か、アレンには分からない。

 しかし、魔眼には星の名前や国の名前、山や海の名前が見える。そこにははっきりと書かれていた。


「魔大陸、クリープラント


『キュオーーン!!』


 アレンが読んだ名前に反応して、NBBが啼いた。


 今日もまた、NBBはクリープラントに啼く。

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