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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
22.月の都
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7.月の都

「何だったんだろうな」


 コストイラが頭の後ろで指を組み、他に問いを投げた。主語も修飾語もなかったが、全員分かった。先程の少女のことだ。


「強くて、弱かった」


 シキが戦った感想を述べる。


「えっと、どういうことですか?」


「お前聞き返すなよ」


 シキの言葉の意味が分からず、思わず聞き返してしまった。コストイラは呆れながら説明してくれる。


「あの女は強い。真正面から戦ったら、おそらくインサーニア戦の時以上の被害が出ていたかもしれねェ」


「えっ!?」


「強いだろ?んで、強いんだけど、索敵能力が弱い。だから倒せたんだ」


「なるほど?」


 コストイラの説明に、大きなリアクションをとる。わざとらしく頷くアレンに半眼を向ける。


「お前、分かってねェだろ」


「えっ! そ、そんなことないですよ!?」


「問1。なぜあの女は、シキが見えていたにもかかわらず、気付かなかったのでしょう」


「え?」


 嫌なところを指摘されたアレンはびくびくし始め、突然の問題に焦りまくる。嫌な脂汗を掻いている時点で、やっぱりわかっていなかったのか思いつつ、答えを出すまで見守る姿を見せる。


「んなこと、どォでもいいんだけどよォ。街が見えるぞ」


「ん?」


 アシドが槍で自身の肩をトントン叩きながら、顎で街を示す。目をキラキラとさせながら走ろうとするエンドローゼを、アストロが慌てて止める。


「怪我するわよ」


「は、はい」





 街の中には簡単に入れた。最初は入れるかどうか悩んでいた門衛だったが、エンドローゼの熱すぎるフォン愛が爆発し、入れてもらえた。

 フォンのことになると、エンドローゼは饒舌になる。ここまでくると、マーエン教と同じくらいの狂信者なのかもしれないと思えてくる。


「まずは宿だな」


「そ、そ、それなら教会に、いーきましょう」


「教会?」


 宿を提案したはずなのに、教会という答えが返ってきて、眉を顰めてしまう。


「き、き、教会なら、や、宿の情報があるかもしれません」


「なるほどね」


 コストイラはアレンと違い、完全に把握した。


 ぐるりと周りを見渡すと、月の看板が飾られている建物を見つけた。あれが教会か?


「あ、き、教会ですね」


 正解だったらしい。


「三日月か。オレ、こういう時満月を飾るもんだと思ってたぜ」


「あ、あ、有明の月です」


「え?」


「あ、あ、あれは有明のー月です。欠け方が違います」


「あ、あー、そうなの?」


 コストイラは月の欠け方に詳しくないので、何が違うのか分からない。


「い、い、いいですか? みーか月は左側が、か、か、欠けていますが、あ、あ、有明の月はみ、右側が欠けています。と、トッテム教のき、教会はつ、つ、月の形でと、と、トップの勤続年数が変わります。つ、つつ、つ、月は朔から次の朔まで30日。それにか、かけて、看板の月は、い、一年で、一日進みます」


「じゃあ、有明の月だから、25年、26年目の奴がいるってことか」


「そ、そ、それはそうなのですが、か、看板の周りにえ、円があ、ありますよね」


「うん」


「あ、あ、あれは、1、い、一度一周したということをですので、こ、こ、ここのトップは55年つ、つ、勤めている、56年目のた、大ベテランですね」


 コストイラとエンドローゼの会話を聞きながら、月の看板を見ていると、目つきの鋭いドワーフが近づいてきた。


「教会に何の用だ? 祈りか? 懺悔か? それともお喋りか?」


「い、祈りです」


 エンドローゼが勢いよく答え、ムフーと鼻息を荒くする。ドワーフは一瞬気迫に圧されたが、すぐに真顔に戻り、教会の扉を開けた。


「ここに勤めて80年、神父になって55年が経つが、ここまで熱心な子は初めて会ったよ」


 どうやらこのドワーフが、この教会のトップらしい。


 教会の中は意外なほど質素だ。フォンの姿は知らないが、あのハイテンションな態度から、もっと派手なものだと、勝手に思っていた。

 落ち着いた暗い木質のベンチ、冷たい印象を受ける石の床や壁。唯一色味を持っているステンドグラス越しに差す光も、どこか弱弱しく感じる。祈りの対象であるフォンの像がひどく貧しく見えてしまう。


 フォンの像を見ていると、エンドローゼが完璧な所作で祈りを捧げた。その光景にはいつものたどたどしさがなく、いっそ見事なものだった。祈る姿勢も美しく、宗教画として描かれれば、数億リラで取引が行われるだろう。


――今は忙しいから短く済ませるよ。君がここまで来たこと、嬉しく思う。あまり見守れなくてごめんね。ただ、私の元まで来てくれたら、存分にモフモフしてあげよう!


 エンドローゼが祈りの姿を解いて、ゆっくりと立ち上がる。


「は、はい!」


 清々しい、元気な返事だった。






「はい!」


 元気な声とともに、桃色の髪をしたメイドが小包を手渡してきた。主人は仕事の手を止め、眼鏡を外すと、荷物を受け取った。


「ありがとう」


「はい!」


 主人はかなりの老齢で、1つ1つの動きが緩慢だ。たっぷり5秒もかけてお辞儀をすると、メイドはまたも元気に返事をして出ていった。

 挨拶なしに出ていったのは、メイドとして叱るべき行動なのだろうが、主人は孫を見ているような気分となってしまい、ついつい甘やかしてしまう。


 小さな刃のカッターを取り出すと、小包を開け始める。出てきたのは木箱だった。こんなもの頼んだ記憶がないな、と思いながら蓋を開けた。


 瞬間、爆発した。


 主人は両手首をなくし、顔や体は見てられない程の火傷を負った。壊れた箱の木片が刺さり、主人は瀕死だった。


 しかし、一命をとりとめた。桃色のメイドがいち早く救助できたことが要因だ。


 箱は調べたが、何も分からなかった。木箱は廃材から作られ、丁寧に鑢で指紋は削られていた。


 会社の大量リストラの恨みか、インフラのために撤去させた家族か。犯人に心当たりがありすぎて絞り切れない。


 今回も犯人は捕まらない。

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