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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
22.月の都
402/683

6.穢れない筈の月の裏側

 少女が目を覚ますと、満天の星星が世界を覆っていた。


「え?」


 少女は目を張った。先程まで自分がいた場所とは違いすぎる。


 先程まで少女は自分の通っている学校の前にいたはずだ。恋人である酒井透と一緒に帰っていたはずだ。

 確かに歩いている途中で足元が光ったような気がする。よく透が話していた異世界転移というやつの導入でよく聞いた話に似ている。


「あ、あ、あ、あ」


 もし透なら喜んでいるのかもしれない。安藤先輩なら正義を執行してやろうという考えになるだろう。


 しかし、この少女、井桁美宇はそんなことを考えていない。元々、現実はかなり充実していた。家族とも仲が良く、休日には一緒に買い物に出掛けたり映画を見に行ったりもしていた。友達との関係も円滑であり、勉強会や学外活動などをして交流していた。透に薦められたライトノベルや漫画を読んで感想を言い合っていた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 やり残したことだってたくさんある。ライトノベルや漫画は読み切っていないし、最新刊だって楽しみにしている。推しのアイドルの登場しているテレビドラマや散歩番組の録画だって見れていない。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 少女は両手で顔を覆い、絶叫した。それがいかなる結果が訪れるのか知らずに。自身の身長を超える岩石がゴロゴロとしている平原で啼いた。


 トッと異常に軽い音が聞こえてきた。自身の声に搔き消されなかったのが不思議な程、小さな音だった。

 未だ涙の止まらない美宇が首を動かす。そこにいたのは白銀の悪魔。星の明かりをバックに浴びて、岩の上で身を低くする銀髪の少女がこちらを見ていた。


「いやっ!?」


 美宇が頭を抱えて叫ぶ。その瞬間、白銀の悪魔の乗っていた岩も含めて、地図が変わった。


 その光景に少女は目を丸くした。自分の力に驚愕したのだ。自分にこんな力がなぜ眠っていたのだ? 私は化け物になってしまったのか?


 美宇は自分の両手を見て、わなわなと震えた。そして、白銀の悪魔に目線を向けた。


 お願いします。助けて下さい。


 白銀の悪魔は岩の陰に消えてしまった。再び流れ出す涙を止めることすらできず、膝から崩れ落ちた。


 美宇には自殺をする勇気などない。しかし、この状態で帰っていいのか分からない。そもそもこの状態で帰れるのかも分からない。そして、生きていく自信がない。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 叫びと同時に周りの地面が剥げていく。少女の乗る場所を中心に半径8mの地面は10m以上も抉れた。


「そうだ。透。透と一緒にいたんだ。透がどこかにいてもおかしくないんだから」


 もう何も分からなくなった少女は、自身の泣き腫らした目をゴロゴロと動かし、自分の恋人を探すために立ち上がった。


「透。透なら何とかしてくれる。そうだよ。透なら大丈夫。どうにかしてくれる。私を助けてくれる。だって、私をピンチから救ってくれたんだもん。透。透はどこ?」


 少女はあたかも普通を装っているが、空中を歩いている時点でかなり人外になっている。


 赤く腫れた目をそれぞれ動かし、透を探す。見つからないのでフラフラと歩き出す。もう泣きすぎて疲れてしまった。


 ドス。


「え?」


 思わず漏れ出た声は、湿り気を帯びていた。美宇の喉をナイフが貫通している。前に刃が来ているということは、後ろから刺されたということだろう。

 後ろから手が回され、顎が掴まれた。少女が理解する前に、思い切り捻られた。ナイフを支店に首が千切れる。

 自分の体が倒れるのが見えた。まだ意識がある。というか消える気配がしない。あれ?


「大丈夫ですか?」


 誰か若い、いや幼い男の声だ。自分より1,2個下くらいか。14,5歳くらいかな。焦げ茶色の髪をした男の子だ。1つ2つ言葉交わすと、白銀の悪魔は美宇の頭を落とした。


 少女の首を切ったのは白銀の悪魔だ。思わず声が出そうになる。しかし、気付いた。


 声が出ない。


 他にも瞬きができない。身体は動かない。もしかして、体は死んでいるのか? 意識はあるのに体は死んでいる。何で?


 少女が焦った隙に白銀の悪魔達はいなくなっていた。私はどうすればいい?


『凄いな。その状態で意識がある。生きているのか?』


 目だけを動かすと、黒ずくめの男がいた。肌の露出がなさ過ぎて、恐怖を覚えてしまう。


 男は何の遠慮なく、少女の服に手で触れる。平然と胸やら尻やらを触れている。少しは遠慮しろ。


『フム。怪しいものは持っていないな。狐に模られたこれしか興味を引かん。これなんだ?』


 男は狐のボールペンを指先で頭の側で屈む。


『目は先の男と同じだな。ズボンとスカートの違いがあれど、何かの制服か?』


 少女は男を睨むが、瞼は一切動いていない。


『フム。話せはしないか。実は先の男を殺してしまった。悪いことをしたな』


 少女の頭に血が上る。こいつを殺す!

 動け! 動け!! 動け!!!


 ぴく。念が通じたのか、少女が動いた。


『私もただただ残虐な者ではない。むしろ平和主義だ。君を、あの者のもとに送ってやろう。何、私は冥府の王と知り合いなのだ』


 その発言を聞いた時、井桁美宇の胴と頭は真っ暗闇に包まれた。

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