9.頂上の見えない山
「ふっ! 」
コストイラが刀を振るう。レッドジャイアントの右腕が斬り飛ばされる。
『グオ!!』
左腕を大きく振るい、コストイラを殺そうとする。その左腕が爆発した。半ばまで露出した腕は空気抵抗に負け、メリメリと折れていき、千切れた。
上段から刀を振り下ろされ、頭部にめり込む。圧力によってレッドジャイアントの左目がデロリと飛び出した。
ドンと倒れる。
「よし」
コストイラは刀を振り、オレンジの血を拭い取った。そして、アストロとグータッチをした。
アシドが槍でトライヘッドの真ん中の頭を叩き潰した。頭蓋骨が砕かれ、脳が漏れ出る。両端の頭が嚙みつこうとした。
その瞬間、視界が急激に下がった。顎が閉じない。自分の瞳に自分の体が映っている。あれ? いつの間に首を斬られた?
シキが何事もなかったかのようにナイフの血を拭うと、トライヘッドに僅かに残っていた意識が落ちる。
「これってどこに向かってんだ? 」
コストリアが刀の背を肩に置き、見渡している。そして、一行の全員の視線が一点に集中する。
「ま、これだよな」
コストイラは自己完結させたが、アレンは処理しきれていない。
「ここって月なんですよね? この山の向こうにファン様がいる可能性だって」
「ねェだろ」
言い終わる前にコストイラに突っ込まれた。おそらく気配や魔力を感じ取っているのだろう。アレンには分からない感覚だ。
「ふ、ふ、フォン様はか、かなり向こうにいますね。お、お、お、お仕事中でしょうね」
エンドローゼが山の向こうを見ながら、手で傘を作り観察している。
エンドローゼでさえ感じているのに、と落ち込みそうになるが、よくよく考えれば当たり前かもしれない。エンドローゼはフォンの加護があるからか、意外にスペックが高い。肉体には恵まれていないが、魔力面に関してはかなり恵まれている。逃げ足はかなり早い。
どう見てもアレンよりもスペックが高い。改めてちょっと悲しくなった。やっぱり脱退した方がいいのではなかろうか。
「よし、登らなくても洞窟があるじゃないか」
アレンが悩んでいる間に、コストイラが道を見つけた。
『この洞窟に複数の出入り口があって助かった。さ、奴らが処理できない魔物を対処するか』
ディーノイが剣を抜いて、先回りするように走り出す。この洞窟は何度も通っているため、道を覚えている。
ディーノイとしてはとある事情により、勇者一行に知られたくないことがある。それを隠すためのタイムアタックが始まっている。
『済まない。邪魔すんな』
ディーノイの剣が黒いオーラを纏い、綺麗な三日月を描いた。