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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
21.月の裏側
384/683

6.声も腕も魔力も

 タジャンクは走った。

 己の未熟さや浅慮さを悔いながら。

 タジャンクは走った。

 後ろにいる悪魔から逃れるために。

 タジャンクは走った。

 ただひたすらに、生き残るために。

 タジャンクは走った。

 勇者一行のいる玄関ホールを目指して。





 ドタドタと扉の向こうから走る音が聞こえる。扉を開けるのを少し待ち、いったん距離をとった。


 1分、2分と経つと、バンと扉が開いた。出てきたのは金の仮面にワインレッドの外套を身に包んだ者だ。走っているような体勢をしているが、少し歪だ。どうやら左腕を押さえているようだ。


 その相手の姿に見覚えがあった。奈落で出会ったアークウィザードだ。身長は170㎝くらいだが、同じ種族だろう。

 アークウィザードが目の前にいたシキに対して、走りながら側転して蹴りを繰り出した。シキは上から来る脚に対して、腕をクロスさせて受け止める。そのままかち上げて、バランスを崩させる。


 タジャンクは目を丸くしながら距離をとった。その先にいるのはコストイラ。

 コストイラが刀を刀を薙ぐが、外套に阻まれる。外套には物理攻撃無効のバフがつけられている。その為、刀が何かを切った手応えが伝わらなかった。感覚としては切ったというより、叩いた、か。


 叩かれた勢いのままタジャンクが柱に突っ込む。この玄関にはなぜか柱が多く建てられている。建築について何も学んでいないアレンでさえ、なくても建ちそうな柱が多いことが分かる。何か理由があるのかもしれないが、見分けがつかない。


 柱の中からタジャンクが出てくる。外套から右手を出すと、金の仮面の縁を掴んだ。カパッと外すと、中からは骸骨の顔。予想できていたので驚かない。金の仮面は横に投げ捨てられた。


 カタカタと骨が鳴る。何か喋っているのだろうが、生憎アレン達の中に読心術に長けた者はいない。読唇術ができる者はいるが、骸骨の顔に唇という概念がないので、何も分からない。

 何も起こらないことに苛立ち、タジャンクが拳を握った。


「な、な、何か困っている? 」

「あの感じ、声が出せないって感じね」

「加えて左腕がねェ」


 奇妙なタジャンクの行動にエンドローゼが疑問を持ち、アストロが違和感を述べ、コストイラが先程の攻撃から考察を話す。タジャンクはアストロの言葉に、首が取れるのではないかというほど縦に振り、コストイラの言葉には外套をはためかせて、半ばから先のない左腕を披露した。

 その行動にどこか苛つきを覚えたアストロが眉を上げるが、一応自制しておく。


「とりあえず会話ができそうにないから、はいかいいえで答えられる質問をしましょう」


「だな」


 全員がタジャンクを見つめる。質問がすぐに思い浮かぶわけではない。


「えっと、そうだな。まずは、最初叩いちまって悪かったな」


 タジャンクが首を振った。


「気にしていない? 」


 今度は縦に振る。


「敵対の意思はある? 」


 タジャンクは大きく横に振った。


「ディーノイって知っているか? 」


 タジャンクが頷いた。


「ここに来た? 」


 また頷いた。


「そ、そ、その傷はディーノイ様によるものですか? 」


 タジャンクは大きく何度も頷いた。

 一瞬ディーノイを悪者扱いする言葉が脳内に思い浮かんだが、アストロは眉根を寄せた。どこか違和感がある。何か引っかかる。


「どうします? 」


「何か悪い奴か分かんねェんだよな」


 アレン達が結論が出せずに悩んでいると、アストロが前に出た。


「貴方は罪を犯したことがある? 」


 タジャンクが一瞬固まったが、すぐに首を横に振った。

 アストロは目を細めてタジャンクを見る。この反応は、隠し事をがバレたときかどうか微妙なサインだ。前者であれば真っ黒だ。後者であればグレーだ。


 タジャンクが首を傾げた。その様子がどこか媚びているようにしか見えない。瞳があれば検証ができるのだが、残念ながら相手が骸骨で、眼窩は伽藍堂だ。


 勇者パーティの中で人の感情の機微にすぐ気付くものがいる。その2人がこっそりにと動いた。


「ホント? 」


 シキの念押しに激しく頷く。何かを隠すような仕草だ。勢いで何かをやり切ろうとしている。


「ふ、ふ、フォン様のことを好いていまーすか? 」


 タジャンクが一瞬キョトンとしたが、何かを探るように頷いた。


 ――ダウトっ!!


 エンドローゼの頭の中で、フォンの声が響いた。

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