表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
20.シン・ジゴク
374/683

18.川を渡る怨嗟の蛇

 彼女は目的があって移動していた。それがどこに向かっているのか分からない。目的があっても目的地がないのだ。

 何を言っているのかと思うかもしれないが、彼女の目的は至極単純だ。

 自分のことを置いて去った男を追っているのだ。男がどこに行ったのか知らない。どこに向かっているのかも分からず、行方を足で探している。蛇の体なので足はないが。

 

 男は必ず戻ると言った。にもかかわらず、あれ以来会えていない。それどころか音沙汰もない。


 女は男を追いかけて、一度は見つけることに成功したのだが、この川に沿って逃げていったのだ。

 だからこそ女は蛇に体を変え、川から追い詰めるのだ。

 そこで、ある神物の魔力を感じた。彼からも僅かに感じた魔力を溢れんばかりに纏っている。


 まさか、彼はそいつと会っていたのか?


 女は今、蛇の体をしている。その為、通常の蛇も持っているピット器官が備わっている。ピット器官は熱感知器官だ。暗闇に生きることの多い蛇が生み出した、獲物の位置を把握するための部位だ。

 それにより、獲物の温度を感知して、闇の中でも素早く捕捉、捕食することが可能である。それはまさしく、暗闇の暗殺者だ。

 そして、この魔物のピット器官には熱感知のほかにも機能がある。魔力感知だ。

 だからこそ、かなりの精度で、それが誰なのか知ることができる。

 欺いてきた男と似た魔力を感じる。

 だからこそ、清姫は河から顔を出した。シルエットだけでなく、その姿を見てやろうとしたのだ。


 河から顔を出した瞬間、エンドローゼの姿を見た。淡い紫色の少女が見えた。自分よりも弱弱しく見える、守りたくなる少女だ。

 他の周りにいる奴も見ようとした時、視界が暗転した。遅れて痛みがやってくる。目元を切られたらしい。その行動が早すぎて、何に切られたのかすら分からない。

 そもそも斬られたのか?潰されたのかもしれない。それすら怪しい。

 しかし、ピット器官に映し出されるシルエットは切った体勢をとっている。やはり切られたのだ。身長150㎝と少しほど、性別は女だ。

 そして、女は切った勢いのまま、体を回転させ、踵を落とした。空中からの攻撃だったにもかかわらず、威力は絶大だった。

 目玉が半分飛び出てくる。蛇の牙が口内で唇を突き破った。顔の肌が割れ、血が噴き出した。端正で綺麗で、滑らかな顔がゾンビのように変わる。


 清姫が女を見る。すでに瞳は切られていて、姿は見えない。ただのポーズだ。

 脳が揺れて、体も揺れる。これは天罰か?男を追ったことに対する仕打ちか?


 体が河に沈んでいき、顔が上を向く。もう何も見えない。眼球が月を観測する。


――しょうがないにゃ~~。


 声が聞こえた。語尾が猫の声真似しているのは何か意味があるのだろうか。

 疑問に答えが返ってくることなく、状況が一変した。周りに人がいなくなっていた。

 いや、7人がいなくなっていなわけではない。自分がいる場所も河ではなく草原になっている。清姫が舌を出す。花のいい匂いがする。ここは花畑。そして、目の前には求めていた男がいた。


『チョウ』


 知っている男の名を口にする。しかし、知っている男の姿ではない。男の姿は自分と同じ蛇だ。自分は起伏を生み出す鱗がないが、男には青い鱗がある。男の目が何か動揺しているように揺れている。

 女は蛇の体を巻き付けた。女からの愛情が強すぎる。男はドン引きだが、女は気付いていない。


『ああいうの実は嫌い』

『じゃあ何で会わせたの?』

『まぁ、多少はね、あとはよろしく、シュルメちゃん。ごめんね』

『いいよ。いつも通りだもん』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ