表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
19.異想への海溝
354/683

10.海没した古城

 アシドは右脇に挟んでいた槍を振るった。水の抵抗を感じながら、後ろに向かって振るう。ガキンと槍が斧を防いだ。常人をはるかに超える魔物の一撃に、アシドの身が水に沈む。いつもなら地に足を着けているので、地面の力も借りることができるが、今は水の中でそれができなかった。


 見えた姿はクラーケンだ。上半身が人間で下半身が烏賊の魔物だ。まさかレイド並みの筋肉とは思わなかった。


 体勢を整えようと体を回転させる。ふと視界の端に入り口のようなものが見えた。あれは洞窟のような自然なものではなく、人工的な物だ。


(お城か?)


 アシドは予測を立てたが、すぐに水面に向かって泳いだ。


 上部からドブンと音が伝わり、泡が出現した。クラーケンが斧を構えながら潜ってきた。


 水中での戦いは慣れである。自分の体のコントロールが陸上とはかなり違うため、百戦錬磨の冒険者でも簡単に、レベルが20以上下でも殺されてしまう。


 アシドは海の男だ。しかも、これまでに何度も水中での戦いを制してきた猛者だ。それでも、毎回戦いは緊張する。


 相手は水中のプロだ。下手を打てばそれで終わりだ。


 クラーケンがその筋肉から繰り出した薙ぎをギリギリで躱す。生み出された水流に巻き込まれて流されてしまう。何とか手足をばたつかせ、動きを止める。


 目の前にはすでにクラーケンがいた。下から斧が振り上げられる。何とか槍で防いだが、水の抵抗のせいで少しだけ遅れた。クラーケンの斧を利用して水面から顔を出す。素早く空気の補充をして、すぐに水中に戻っていく。


「アシド!」


「状況が見えねェ。波も泡も邪魔だな」


 レイドとコストイラが目を凝らすが、アシドとクラーケンの様子が分からない。アレンはぐったりしていてアシドの方にまで気が回せない。アストロもぐったりしているが、右の指だけを海面につけて潮の流れを感じ取る。指先から分かる。アシドはまだ生きている。








 プシと左腕から血が噴き出す。やはり水の中は動きづらい。武器が槍であることも動きづらさの一つだ。


 長柄の槍はその分水の抵抗を感じる。先端に行くほど抵抗を大きく感じてしまう。おかげで対応が遅れてしまう。


 頭の中にある映像通りに体が動いてくれない。クラーケンがいったん距離を置き、一気に距離を詰めてくる。アシドは最低限の動きだけで槍を構える。槍の形状を考えれば、水中であれば抵抗が少ないのは薙ぎよりも突きだ。アシドはクラーケンに槍を突き出す。踏ん張りがない状態での突きに、クラーケンが斧で防ごうとする。


 しかし、突きの速さは振りの速さよりも速い。穂先が斧を擦り抜け、胸を突く。男が憧れる胸板の硬さに苦労するが何とか貫く。


 槍を引き抜くと、クラーケンの胸から血が出てきてそのまま沈んでいく。


 アシドは呼吸がきつくなってきたので、水面を目指す。


「プハァ」


「アシド」


 肩で息を整えながら、差し出されたアストロの手を取る。


「そういえば、この先どこに行くんだ?」


 手を握ったまま岩に上がらずにこの先へ行く場所を聞く。その答えはいくら待っても返ってこない。勇者一行はこれまでも無計画に進んできた。今だって何も考えていない。だから答えられない。


 予想外に下に落ちてしまったため、本当に行く宛てがない。


「ちょっと待ってろ。探してくる」


 アシドがアストロの手を離すと、海に沈んでいった。


「元気ね、アシド。私には無理だわ」


 アストロはアシドの温もりの消えた手をジッと見つめ、海につけた。








「プハァ」


 中に空間がある。灯りがないので何も見えないが、音からしてかなり広いだろう。50~100m近い岸壁の中に、この空間が存在している。


 完全に空間内に立ち上がったが、やはり何も見えない。自身の顎を撫でながら暗闇を見つめる。


「アストロとコストイラなら火を出して調べられるんだろうな」


 自分ではどうしようもない壁にぶち当たり、アシドは引き返すことにした。綺麗なフォームで水の中に入り、アストロ達の元まで泳ぐ。


「海の中に遺跡があったぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ