4.断崖絶壁の死闘
水を吐いてくるディープドラゴンに対して、何もすることができない。正確に言えばアレンやアストロは遠距離から攻撃できるのだが、100m以上も距離があるため、矢が風に煽られ、ディープドラゴンまで届かない。アストロの魔術は大ダメージを与えられない。地属性の攻撃であれば弱点を突くことができるのだが、生憎アストロは地属性の魔力を扱えない。唯一の有効打になりえる光属性の雷は、威力が足りない。何度も放てば勝てるかもしれないが、魔力酔いを起こすだろう。
それでもアストロは魔術を放つ。
コストイラは切り立つ崖壁を蹴り、グレートドラゴンの背中に降り立つ。赤い侍は硬い地竜の皮膚を刀で貫き、傷をつけていく。グレートドラゴンが何もするわけがなく、飛べない羽をパタパタと動かし始める。
なぜ動かし始めたのか分からず、不審に思ったコストイラは翼に近づかない。しかし、注意すべきなのは羽ではなかった。
コストイラの顔がブレ、体ごと持っていかれる。初めコストイラには何が起きたのか分からなかったが、直後、自分の顔が濡れていることに気付き、ディープドラゴンの水弾であることを察した。よく岸壁を削るレベルの水弾を食らって平気だな、と場違いな感想を心に浮かべた。
コストイラが消えたグレートドラゴンの背中にアシドが乗っかる。アシドの体もブレてコストイラの隣の壁に突っ込んだ。どうやらピコピコ動かしている翼は、ディープドラゴンの気を引こうとしているようだ。
グレートドラゴンは何事もなかったように鼻を鳴らし、体を揺らした。
ディープドラゴンに対しての有効打がない時間が続く。アストロは魔力酔いを気にする段階におり、アレンの方はしれっと矢が尽きていた。
エンドローゼの精神は未だに攻撃に向いていない。ここでサイレントセレナを撃って当てれば、おそらく一撃で終わらせることができるだろう。しかし、エンドローゼの頭に自分が攻撃陣に加わるという意識がない。
「いつかにやったあれやるわよ」
「あれ?」
アレンがアストロの言っていることが分からず顔を見る。アストロが魔力で矢を作って渡してくる。アレンがヘドロに塗れたディープドラゴンのことを思い出しつつ、魔力の矢を受け取ると、その矢を番えた。魔力の矢がディープドラゴンに向かう。魔力の矢は通常の矢よりも鋭く、そして速かった。
ディープドラゴンが気付いた時には遅かった。何か対処する前に魔力の矢が左目を穿った。
流石の貫通力でディープドラゴンの頭部を通過する。上部から入った魔力の矢は脳を貫通することなく、喉を貫いた。ディープドラゴンの左目から紫色の血が流れだすが、致命に至っていない。
ディープドラゴンが水弾より威力の高い水砲を吐き出す。
片眼になったからか、狙いがズレて立っていた崖路に直撃する。道の半分が破壊され、アレンとアストロは宙に投げ出された。
グレートドラゴンの泥弾をレイドが楯で弾く。一発弾くごとに後ろに下がってしまう。威力が高い。このまま受け続けることは出来ない。
腕も脚も痺れてきた。そろそろ楯を落としてしまいそうだ。足を滑らせてしまいそうだ。後ろにいる者達を守れなくなってしまう。
ギリリと奥歯を噛み砕かんばかりに耐える。
レイドがグレートドラゴンの気を引いている間に、シキが岸壁を走り抜ける。シキは埋まっているコストイラとアシドを飛び越える。そしてシキはグレートドラゴンの背中に乗ることなく、頭の上を目指して踵を落とした。
小柄な体のどこにそんな力があるのか分からないが、グレートドラゴンの頭が崖路に沈んだ。そして、崖路が崩れた。
グレートドラゴンの指には物を掴む関節がないに等しい。崖から落ちる地竜にそれを止める手段がない。グレートドラゴンの体が半回転して、下から突き上げている槍のように鋭い石に突き刺さった。
普段であれば刺さらず、その体で破壊していたであろうが、今は傷が多くついている。その傷に運よく入り、グレートドラゴンの体を貫いた。