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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
18.最果ての孤島
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15.古代の巨神

 タイラントは古代に造られた量産型の兵器である。古代とはドレイニー帝国建国以前の時代を指す。建国後は個人のスキルで戦場を支配する戦い方だが、それ以前は物量で圧殺する人海戦術が取られていた。そのために造られたのがタイラントである。


 戦いにおいて使われる武器を通さない鋼のボディに、一撃で数人を纏めて葬るパワー、数日間でも数十日間でも動き続けられるスタミナ。どれをとっても戦場でトップだった。


 その強さは限りなく、戦場を蹂躙する。その様を当時の兵士はこう評した。


 巨神兵、と。








 ズゴゴゴと巨神兵が動きだす。しかし、その動きはかなり緩慢で、怖いくらいにギギギと音を鳴らしている。


 今までに油を差したり掃除をしたりと、メンテナンスをしてくれるものはいなかったのだろう。鉄同士を擦り合わせながら、コストイラに拳を振るった。コストイラは易々と後ろに跳んで躱した。


「ダメージは?」


「残ってる。けど、大丈夫だ。戦える」


 コストイラとアストロが短く言葉を交わす。これだけで会話の意図を酌んで成り立ってしまうのは、それだけ長く一緒にいたからだろう。アレン?もう1年半は一緒にいるけど駄目だね。全然理解できない。


 タイラントの眼球内部で、十字付きのサークルが3つ生成され、同空間内にいる3人にそれぞれマークする。


 コストイラ。19歳。火属性。武器:刀。体に刻まれた傷:打撲及び切り傷、擦り傷。空いた壁の穴と落ちている瓦礫からそれによる傷のみと判断。恰好から回避重視型と推測。


 アストロ。19歳。闇属性。武器:魔力を帯びた指輪。おそらく魔術師。体に刻まれた:なし。やはり後衛である魔術師である可能性高し。


 アレン。16歳。光属性。武器:弓矢。この武器で前衛なことはないな。体に刻まれた傷:右目上に切り傷。髪に隠れているがコブがある。これは結構古い傷だ。左耳が破り取った羊皮紙のようにギザギザしている。左腕の神経が少し捻じれていて痺れていると思われる。右腕は火傷していて、動かしづらそうだ。え?後衛だよね?前衛並みの傷なんだけど。巨神兵もキャラを忘れてびっくりしちゃう。


 タイラントはこの中で一番脅威とみなしたコストイラに十字付きサークルを合わせる。


 タイラントが腕を振るい、コストイラは高跳びで躱す。跳びながらカウンターで刀を振るう。鉄板のせいで火花が散る。


 タイラントの眼球内にある十字付きサークルがコストイラを追う。その眼球に炎が当てられる。


 コストイラの次に対処しようとしたアストロが攻撃を仕掛けてきた。タイラントはこの程度の熱でどうにかなるわけではない。炎で視界が塞がっているが、その中でも十字付きサークルは動いている。


 コストイラは意図を察して炎を纏い、眼球部を炙る。意図を察してくれたことを感謝しつつ、今度は水属性の魔術を準備する。


 十字付きサークルがぐるぐると動く。コストイラが早く動いているのだろう。動きを予測して拳を振るう。


 コストイラは拳の下ギリギリを通って躱す。タイラントとしては、サークルを殴ったはずなのに感触がないので様々な可能性を検索する。


 その時、熱せられていた眼球に水が当てられた。アストロは炎ではなく水に切り替えたようだ。まぁ、水でも動かない。だって水陸両用だし。そんなことを考えていると、バシリとガラスが罅割れた。眼球部を覆うガラスカバーが熱格差で割られた。その罅から水が入り込んでくる。


 繊細な危機に水が浸入する。バチバチと火花が弾けた。十字付きサークルが消えていく。これを狙っていたのか。


 そうか、今はこういう戦い方をするのか。








 一人になった。しかし、以前のような独りは感じない。皆がいるから。


 シキはゆっくりとナイトメアスタイルをとる。


『ブフゥ』


「……」


 ミノタウロスはシキを邪魔ものではなく敵として認知し、血が固まり錆びついた大剣を強く握りしめる。シキは左のナイフを前に向け挑発する。


『ブモォ』


 唾を撒き散らしながら突っ込んでくるミノタウロスの大剣に、魔力を込めた左のナイフを当ててスラリと切っていく。そして、半身となって逆手のナイフをミノタウロスの腹に差し入れる。


 本来であれば硬いミノタウロスの腹筋だが、すでにアシドとコストイラが腹を切ってくれていたおかげだ。


 しかし、そこで粘ることはせずにすぐ離脱する。鼻先ギリギリを太い指が通り過ぎる。


 ミノタウロスの腹筋が硬い。肉の鎧と言われているだけある。その硬さが臓器を外に出すのを阻害していた。ミノタウロスはまだ動く。シキの逆手ナイフを順手にする。


 ミノタウロスが一歩踏み出し、掴みかかってくる。シキはもう何歩か後ろに跳ぶ。シキだけが月にいるかのように軽やかに跳ぶ。


 そしてシキは一気に前に出た。ミノタウロスの五指を切り飛ばし、手首を突き、腕の筋を切り、肘をつき、回転しながら懐に入っていく。


 ただ鋭いだけのナイフをミノタウロスの目玉に突き刺す。何かミノタウロスが行動を起こす前に、魔力の篭ったナイフを振るう。頭にナイフが入り、硬い頭蓋骨も易々と斬り開いていく。


『ゴッ!?』


 ミノタウロスは目や鼻や耳から血を吐き出し、大きく3回痙攣すると動かなくなった。


 結局一人で倒してしまった。レイドは下唇を噛む。結局またシキ一人で倒した。魔王城の時と一緒じゃないか。あの時から何も成長していない。


 ポンとアシドが肩を叩く。


「ゆっくりだ。オレ達みてェな凡人はあんな天才にはなれねェ。ゆっくりでも、少しでも近づくんだ」


「あぁ、そうだな」


 凡百の人間、アシドとレイドはそれぞれコストイラとシキを睨み、選ばれた超天才エンドローゼは2人を眺め続けた。

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