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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
17.彼岸
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27.精霊の女王

『アイケルスは我々に様々なものを残していきました』


『そうですね。様々な悔恨や心的外傷を。アイケルスのせいで』


 ティターニアがアストロ達を見る。アストロとレイドとアレンが構える。


『貴方達は精霊に関係がありません。今、ここからいなくなるのでしたら、見逃しましょう』


 口吻のない蝶の顔が優しそうに見える。見えているのはおそらく気のせいだろう。温和な雰囲気から、選民主義的なオーラを感じ取れてしまう。


「あら、優しいのね」


『えぇ、貴女が敵でないのなら』


「そう」


 優しい声音でそう言うと、アストロはえげつない火力の炎を浴びせた。


「私はね、とっても優しいから、いついかなる時でもコストイラの味方でいるつもりよ」


 目がマジだ。アストロはキレており、その決意の表れが指から放たれた。火力が高すぎて、ティターニアもハルモニアも目を見開いたように見える。そもそも両者複眼のため、よく分からないのだ。


 唐突の炎に蝶2匹は何とか対応しようとする。そこに一陣の風が通った。


 シキである。風となったシキが蝶が炎に気を取られている間に駆け抜けたのだ。両蝶が斬られる。そこで動きが数瞬止まった。驚愕による硬直はティターニアの方が早く解けた。


 ティターニアだけが炎からの逃れた。ハルモニアはアストロの炎を浴びて、堕ちて行った。ハルモニアは大きく体を捻り、精霊の泉に着水しようとする。


 アレン達が何しようが、位置的に後押ししてしまう。


 もう一度シキが風になった。毒に身を蝕まれたままでありながら、炎に体を突っ込ませた。


「あ!」


 早いとこアシドの回復を終わらせたいエンドローゼが声を出した。まぁ、ここまで無茶をすれば当然か。


 シキはタックルと同時にナイフを胸元に突き刺していた。そのままベタベタになっている胸毛に頬をつけて、泉の外側まで押し込む。


 ハルモニアが着地するが、魔力が枯渇していて酔いが始まっている。もう飛べない。シキもその横に落ちる。衝撃で血を吐きながら、地面をごろごろ転がり火を消している。


『もう容赦は致しません』


 複眼の総てをアストロに向け、怒りの声音で告げる。最初から容赦など期待していないアストロは動じない。


「あら、優しいのね。容赦する気があったなんて」


 アストロが2つ、3つと炎の魔力を放つ。体長5mはある的なのだから簡単に当たるかといえば、そうではない。ティターニアとて生きているのだ。そう簡単に死にたくない。それなりの魔力戦が繰り広げられる中、アレンはシキを回収してエンドローゼの元に届ける。


 復活したアシドがアストロの助太刀に入る。地面を爆発させる勢いで踏み切り、空を駆ける。踏切の音が大きすぎて気付かれてしまい、アシドの攻撃は空振りに終わった。そのまま重力に従い落下していく。


 そこでふと、泉にいた精霊(いつの間にかいなくなっている)の言葉を思い出した。この泉ってヤバいやつじゃなかったか?


 アシドの足首が泉に入る。その瞬間、バチンと電気が走る感覚がした。何か言い表しづらい衝撃が全身を走る。目玉が飛び出しそうになり、鼻や口から再び血が出た。エンドローゼの回復魔法に血液を増やす機能はない。これ以上血を失うのはマズイ。


 アシドは咄嗟の判断で、もう片方の足に魔力を通した。何とか無理矢理水面に立った。膝が崩れそうになる。血の量がすでに黄色信号だ。根性で動いているが、もう意識が飛びそうだ。


 それと連動するようにアストロの腰が落ちる。魔力酔いだ。怒りに任せてやったのだから仕方あるまい。しかし、未だ怒りは収まらない。何としても怒りを収めたい。


 ティターニアが攻撃してこない。舐めプか?キレそうになるが、聞こえてきた音がそれをさせなかった。


 ザリッと砂が噛む音が聞こえた。蒼いオーラを纏うコストイラがアストロの横を通る。目が座っており、アストロのことは見えていない。血が流れすぎていて、力があまり出ていない。刀が震えていてカタカタ鳴っている。


「コストイラ?」


 アストロの不安そうな顔も声もコストイラに届かない。ボロボロの体で一気に肉薄する。振るう刀が致命を与える攻撃にならなかった。ティターニアの翅が1枚切られる。


 イシンテが翅でコストイラを叩く。コストイラは無抵抗に飛ばされ、精霊の泉に突っ込んだ。アシドが槍を振るう。それに気付かなかったティターニアの翅が斬られる。精霊の女王は傷を治すために泉に落ちようとする。


 ザバリと泉からコストイラが出てくる。蒼いオーラが消えている。しかし、今回は気絶していない。


 イシンテは急遽止まろうとしたが、もう遅い。先ほどよりも速い斬撃がイシンテを襲う。


 目元が斬られ、顔が斬られ、首が斬られ、胸が斬られ、触覚が斬られ、体のありとあらゆるところが斬られた。


 コストイラはイシンテの頭を掴み取り、回復を完了させない。膝まで浸かる体を動かし、頭を岸に投げつける。その頭に刀を突き刺す。イシンテはまだ死んでいない。それが分かっているからこそコストイラは呟いた。


「オレの勝ちだ。”泉の守護者”イシンテ」


『流石ね。アイケルスの置き土産』

「いい加減聞かせなさい。アイケルスとはどういう関係なの?」

「悪い。まだ話せそうにねぇ。もう少しオレの中で考えさせてくれないか?」

 アストロはそれで納得した。腕組みをしたままのアストロはフンと鼻を鳴らし、背を向けた。

「アイケルス。今、お前はどこにいる?」

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