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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
2.癒の郷
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8.魔眼

 街道沿いに魔物が住み着いたらしい。その魔物は通りかかる行商を襲うので治癒院の被害が大きいらしい。現在は懸賞金も出され、すっかりとお尋ね者だ。


 姿は人型の兎。獣人に似ているがそれを言うと、獣人がキレて喧嘩が勃発した。相当大規模に喧嘩したようで酒場が使えなくなっていた。コストイラが気に入って毎日のように通っていたらしい。割と落ち込んでいた。そんな姿を見てアストロが別の酒場に連れて行っていた。


 攻撃方法は魔眼。僕は魔眼という点に自分と近しいものを感じた。僕の眼は特殊な眼だ。他の者には見えないモノさえ見える。属性、レベル、職業。見たくなくても見えてしまう。


 最近になってようやく自在に切り替えできるようになった。これまでは膨大な情報量が常に脳を刺激していて、もはや攻撃となっていた。その苦しみはこの目が魔眼なのでは?と思わせた。








 オレリアは溜め息を吐きながら依頼書を貼りなおす。また失敗したのだ。依頼は失敗すればするほど報酬が上がっていく。つまり高い金額は要注意ということだ。


 こうも失敗続きだと誰も受けなくなっていく。塩漬けクエストとして認定されてしまう。


(これお給料に反映されちゃんだよなぁ)


 オレリアは溜め息を吐く。なんでここに配属されちゃったんだろう。


「これがどうかしたのか?」


 オレリアの耳に最近聞いた覚えのある声が届く。赤髪の青年だ。隣には先日と同じように茶髪もいる。あの塩漬け寸前クエストを見ている。もしかして受けてくれる?


「何か親近感があるんですよね」


 親近感?何に感じているんだろう。


「眼?」


「眼です」


「でもやばそうだぜ。具体的には塩漬けのにおいがする」


 まずい。このままでは受けてもらえないかもしれない。


「駄目ですかね」


「まぁ、いけんじゃね?」


 おや、流れが。


「じゃ、やるか」


 赤髪は羊皮紙を剥がすとこちらに近づいてくる。


「これ受けます」


 ”バニーの討伐”


 オレリアは見えないようにガッツポーズした。








 コストイラは刀に付いた血を振り払うようにパッパッと振り、鞘に収める。スゥと静かに息を吸う。


「……オオカミじゃねェか!」


「うわっ!びっくりした」


 普通にキレた。


「ウサギって聞いてたのによォ!出会うのはオオカミばっかだなっ!!」


 そう、コストイラが相手していたのは人型の兎ではなく、茶色い毛並みにオレンジの眼をしたグローウルフだった。その苛立ちをもれなくグローウルフにぶつけまくっていた。あれは任せても大丈夫そうだろう。


「兎出ませんね」


「っ!!そ、そ、そうですね」


 エンドローゼは唐突に話しかけられ肩をびくりと震わせる。エンドローゼは暫くもじもじとすると、意を決して口を開くが、音が出る前に横槍が入る。


「兎が出たぞ」


 駆けつけるとアシドとコストイラが地に尻をつけ、武器を手放していた。


「何があったんですか?」


「分からん。ただ、あの兎のあの眼に見つめられてからああなったんだ」


「魔眼、ですね」


 アレンは即座に弓を引き絞り、バニーを狙う。放たれた矢は真っ直ぐにバニーへ向かう。バニーは矢を避けると、爆発的な速度でアレンに近づく。


 眼と眼が合う。


 周りが引き剥がそうとするが、今更間に合わない。


 花の匂いがした。


 一度瞬きをするとアレンは花畑にいた。


 甘い、甘い花の匂いだ。


 その匂いを運ぶ風に花弁は舞い上がり、見惚れるような光景を生み出していた。


 戦意が削がれていく。


 この花を踏み躙ってまで争うことなんてあるのだろうか。


 手の中から弓が滑り落ちる。


 甘い甘い花の匂いがした。








「アレンっ!」


 レイドが叫ぶが、アレンに声は届かない。アシド、コストイラ同様、目の光は消え、武器を落とし座り込んでしまった。


 エンドローゼは下唇を噛んだ。


 エンドローゼは回復術士として目に見える傷は治せる。しかし、状態異常や精神病は治せない。3人を治すには、兎人を倒し、その魔眼の能力を絶つしかない。


 現在まともに戦えるのはシキしかいない。他の者は兎人の速さに追いつけない。








 甘い花の匂い。


 肺に充満させると、花畑を見渡す。


 知らない花ばかりだ。そもそも知っている花の方が少ないが。花に注意しながら移動する。


 その中に、一人の女性が立っていた。


「あなたは?」


 聞こえていないのか反応がない。よく見ると輪郭はぼやけていて、現実におらず、幻覚なのではないかと思われる。


 アレンが近づくと、女性が振り返る。顔が見えない。何か白んでいてその凹凸さえ確認できない。女性は右手を差し出してくる。まるでこちらを導こうとしているかのようで。


 アレンもそれを求めるように右手を伸ばす。


「あの」


 手は届かず、追いかけていく。


 銀の髪をした女性は小首を傾げ、遠くへと走っていく。アレンは向かう先を見る。何も見えない、全てが白んじていた。


 凛として澄みやかな花の匂いがした。








 アシド、アレン、コストイラの眼に光が戻る。最初に眼に入る光景は3人とも一緒だった。バニーの眼にシキがナイフを突き立てていた。アレンは目を張る。いったい何があったのか。


 アレンが倒れたすぐ後のことだ。アレンの次に魔眼の餌食になったのはシキだった。


 シキが見た光景は王の謁見の間、行われたのは王からの命令。


「その刃を捨てよ」


 シキの反応は至ってシンプル。こてんと首を傾げた。


 シキは相手が王であることは分かったが、それに従う義務があるのが分からなかった。シキはナイフを抜き、王の胸に突き立てた。


 シキを中心に花の匂いの風が吹いた。


 凛として澄みやかな匂いがした。


 シキは自力で魔眼の拘束を解いた。王の胸はバニーの眼に移り変わり、バニーの魔眼は使えなくなる。


 バニーの眼の奥、脳にも届きその命を絶えさせる。




 この日、オレリアは公然とガッツポーズをし、冒険者達を驚かせた。

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