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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
17.彼岸
302/683

5.彼岸に舞う

 下から口が来る。


 しかし、焦らない。刀を振る速度を考えたら間に合うからだ。


 しかも、視界の端に少し黄ばんだ白色の肌の女が見えている。自分の刀より先にそっちが対処するだろう。そう思った時、ケツァルコアトルの顔がひしゃげて森の中に消えていき、代わりにその場にその女が残った。


 女が肩で息をしている。その女の後ろにコストイラが着地する。


「お前たちは、何者ダ」


 女がショートソードの血を拭いながら振り返り、質問してくる。コストイラも振り返り、女の姿を見て目を細める。視界の端で見えた女の肌の色は、肌の色ではなかった。それは包帯だった。女の肌は一切露出しておらず、異常なまでにすべて包帯で覆われていた。


「勇者一行だよ」


「勇者だト?」


 女の目が鋭くなった。威圧感が増すが、コストイラはその程度では退かない。女が一歩詰め寄る。包帯の隙間から、ちらと皮膚が見えた。肌が赤黒く、凸凹している。黒い斑点も見えている。これは皮膚癌か?


「勇者なら、どウして私達を救ってクれなかっタ!?」


 それは少女の悲痛な叫びだった。少女の言葉は続く。太陽の神を主張する者が集まってきたこと。その間で諍いが増えたこと。女の村がそれに巻き込まれたこと。村が死んだこと。村人が燃えたこと。家族が目の前で死んだこと。


 声が枯れるのではないかというほどに叫び、コストイラの胸ぐらを掴み、自分の顔に近づける。ピカッと光を浴びて女の目が細まる。


 コストイラの背側の叢にいたシキがコンパクトな鏡を動かして、光を反射させて何かを伝えようとしている。女は光を鬱陶しそうにしながら、コストイラに詰め寄って行く。


 コストイラは女の体に抱き着き、横に跳んだ。1秒後にはその場を熱線が通った。


 ケツァルコアトルは未だに死んでいない。コストイラはすぐさま立ち上がり、ケツァルコアトルの方へと走る。並走してシキが通り過ぎた。


 魔力を纏うナイフが、羽毛ある蛇の青い鱗を切り裂く。痛みで持ち上がった首の下にコストイラが入り込み、刀を振るい首を斬り落とした。


 女は悶えたまま立ち上がれない。コストイラは女に近づき、顔の近くで屈む。


「分かってんだろ。自分の寿命が」


「ハァハァ。私はもっテ半年か一年だろう」


「いつまで生きているんだ?」


 コストイラの非情なセリフに女は歯を食い縛る。分かっている。無駄なことくらい、理解している。一柱一柱倒したところで、似非太陽神は生まれ続ける。


「……寿命が果てるまで」


「…………そうかい」


 女は痛みに悶絶しながら、コストイラを睨む。コストイラは立ち上がると、女を置き去りにする。


「あ、あの」


「駄目だ。あれは病気が所以だ。回復魔法じゃ治せねェだろ」


「あ」


 エンドローゼが衝撃を受けて、瞳を揺らしてコストイラから女に視線を移す。口元を手で覆い、涙を流す。


 病気は回復魔法ではどうにもできない。エンドローゼには、この少女を救えない。エンドローゼはせめて体力の回復ぐらいは、と回復魔法を掛けておいた。


 勇者一行は太陽の塔の裏に存在する森の中に入っていった。

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