3.治癒院への入り口
きっかけはダークトレントの叫びだった。
すでに日の出が近づいている時間帯になっていたので、もうこのまま街まで向かうことにしたアレン達は歩き始めた。
「ふぉあ、寝み」
コストイラが欠伸をする。アストロも目を擦り、涙を拭う。アシドは漁師の家系で朝が早かったのだが、それでも眠そうに欠伸を噛み殺している。その他も眠そうな反応を示す。エンドローゼだけは朝に強いようでしゃっきりしている。
アレン達の後ろにキノコがいた。赤と白のどう見ても明らかすぎる毒キノコだ。
「朝の気付けには無理だな」
「つか、こんなところにキノコなんてあったか?」
アシドは最近まともに食べていない腹を押さえ、コストイラは素直に疑問を呟いた。
「暗くて気付かなかったんじゃないの?」
「それもそうか??」
アストロが素っ気なく答えると、コストイラは頭を掻いて首を捻る。言われてみれば確かにそうかもしれない。
「ま、気にしても仕方ねェか」
「どうしました?」
「何でもねェ」
コストイラはすっかり忘れてしまおうと前に進む。しかし、赤と白のコントラストはインパクトが大きく、簡単には忘れることができない。そういう色合いなので仕方がない。
「あ?さっきのキノコじゃね?」
「同じ種なんでしょ。オンリーワンな種なんてなかなかないし」
「それもそっか」
「あ?またか」
「群生地なんじゃない?キノコなんだしそればっか生えてる場所だってあるでしょ」
「確かに。お前の言う通りだわ」
「ん?また」
「よく生えてるのね。ていうかあなたも良く見つけるわね」
「それ褒めてる?」
「まただぜ。何かよく目にすんなァ」
「意識してるからじゃない?人は意識するとそればっかり注目するようになるらしいわよ」
「へぇ」
「どうしたんですか?」
コストイラとアストロの会話にアレンが入り込む。
「いや、あのキノコなんだけどよ、なんかずっと見えんだよな」
「蕩虫禍草?」
コストイラの指す先のキノコを目にする。アレンは自身の眼に魔力を込め、見える名前を呟いた。そこからの反応は劇的だった。
「ふぁ!?オメッ!あれが蕩虫禍草かよ!図鑑で見たものとは何か違ェんだけど!?」
「ええ!?私ももうちょっと、なんていうか、こう、虫っぽい部分があった気がするわ。あれ?習ったことと違う」
稀にも見れない慌てぶりだ。
「そんなに危ないやつなんですか?」
相手の出方を窺いつつ、アレンの質問に答える。
「ええ、無知なあなたに教えてあげるわ。蕩虫禍草は毒キノコであり、その毒は散布されるのよ。その威力は小動物なんてイチコロよ」
聞いたアレンは背筋がブルリと震えた。
「毒を出す前に燃やすぞ!」
「やれ!」
蕩虫禍草は自ら動くことなく、ただただそこに存在している。動かない相手などコストイラの敵ではない。蕩虫禍草は少し胞子を出し始める。
森林火災の恐れを一切考慮せず、遠慮なく燃やす。炎が立ち上り、毒と共に燃えていく。
「終わったし、もう行くわよ」
「うぃ」
アストロの言葉にコストイラが親指を立てる。
「ところで」
アストロはアレンの顔を見る。
「?」
「顔、凄いことになってるわよ」
半笑いで言われた。コストイラも我慢している。え?僕の顔どうなってんの?
今、自分の顔を見る手段がない。どうなってるんだろう。見る手段があっても見る勇気があるかといわれれば、分からない。
「おぉ、街だ」
遠目に街の入り口の門が見える。あともう少しで街に着くと思うと、心が弾む。割と体力がきつい状況だが、頑張れそうだ。
「おや、冒険者かね」
街道沿いに白髪の男が立っていた。剣を持っているところを見るとこの男も冒険者だろうか。それとも騎士か?鎧を着ていないし騎士ではないかもしれない。
「そうです」
「この先にある治癒院は冒険者御用達の回復どころの街だ。君達も怪我をしたのかね?いや、そういうわけではなさそうだな。別の目的かな?」
男は片眼を閉じて、目的を見極め始める。
「ただの経験値稼ぎですよ」
嘘ではない。嘘ではないが本当のことではない。旅の目的など人に話すようなことでもない。
アレンが答えると、コストイラが前にでる。
「オレはコストイラって言うんだ。アンタは?」
「おっと。名乗るのを忘れていたな。私はヲルクィトゥ。未知を求め、探求し、旅をする冒険者だ。私はもう少しここに残る。もし、君達がもっと未知を求めるのであれば、私のとの再会は早いことだろう」
「えっと、アンタ大丈夫か?」
街に入る際、門番に心配された。話しかけてきた門番の後ろにいた人々は笑いを堪えている。
「僕の顔はどうなっているんですか?」
「私の口からは説明しにくいな。自分の目で確かめると良い」
通してはくれたが、気になってしまう。本当に僕の顔はどうなっているのだろう。
「僕の顔はどうなっているんですか?」
「昨日は顔を洗えなかっただろう?倒れたときの泥が顔についてんだよ」
「え?」
「言うなよ。面白かったのに」
コストイラ達はわざと言わなかったようだ。どういう風についているのだろう。




