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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
13.魔界
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9.魔女の宴

 前回のあらすじ。城を探索することになった。住民の一人ナゾールが他の住民に話を通してくれた。


「冒険するのはいいですが、どこからしますか?1階か2階か、手前か奥か。結構広そうですけど」


「んー。そォだなァ」


 アレンの提起した問題に一同がキョロキョロと辺りを見始める。


「冒険しようって最初に言った奴が決めましょう」


「そうなると、オレか」


 コストイラは誰だろうかと見渡すが、全員の視線が自分に集まっているのを感じ、自覚する。コストイラは10秒ほど悩み結論を出す。


「1階にしようぜ。何か凄ェ研究室とかありそう」


 アストロとアシドは城の外にそれっぽい小屋があったことを忘れているらしいコストイラを放置することにした。そっちの方が面白そうだからである。シキはアストロが話しそうにないので口を閉ざした。アレンとレイドはコストイラ同様忘れていた。エンドローゼは面倒事の可能性を察知してだんまりを決めた。


 アレン達は奥へと進みつつ、食堂やお手洗いの場所を確認した。むしろそこ以外はよく分からなかった。いや、分かりたくなかった。三角木馬のある部屋。磔用の十字架と手足に使うと思われる謎の器具達の部屋。その他あまり書くに適さないモノばかりの部屋が続いた。


「ここの住民、大丈夫ですかね?自己流のおもてなしとか言って拷問してきたらたまったもんじゃないですからね」


「知らん。その時は全力で逃げろ」


「ピィ!?」


「どうした!?」


 ビクビクしているアレンは安心しようと質問するが、返ってきたのは安心できないものだった。エンドローゼの足元に何か人の顔大のものが落ちているのを見てしまい、悲鳴を上げる。その際、抱き着かれたレイドは己の胸で護るように抱き寄せ警戒する。


 そこに落ちていたのはランプだった。ランプだったことで油断し、ホッとしたところでバンと扉が開かれた。これにはエンドローゼだけでなく、アレンもびっくりした。


『悲鳴がしたから来てみれば、君達は何者だ?いや、待て。もしかして君達はさっきナゾールが言っていた、フイソレを倒した奴らか?』


 扉から出てきたのは、一目で元気を通り越してハリケーンのようだと思える女だ。快活を圧縮したような声、勝気と強気を掛け合わせたような眼、アップに纏められた髪は苛烈な赤と激烈な紅が混ぜられ煮詰められたような真紅の色。そしてパンツルックの見た目から、近接特化の雰囲気を感じ取れる。


 しかし、見つかったのはまずいのだろうか。


『フイソレはあれで筋のいいやつだからね。倒せたってなれば相当な実力者だろう。どうだ。ここはひとつ、アタシと戦わないか?』


 5mの巨体に見下ろされ、気押される。これは頷いたら準備も合図もなしに始まるパターンの奴だ。そして、アレンの嫌な予感は的中した。


「いいぜ」


 コストイラが了承した直後、声も発さずに下段蹴りをしてきた。その足に炎が纏われている。迫る足首にコストイラは肘鉄を食らわす。女は痛がる素振りも見せず、肘鉄ごと蹴り飛ばす。コストイラは壁を突き破り、隣の部屋まで侵入していった。コストイラのことは心配だが、自分の身も心配だ。追撃に備えるが、女は頭を抱えていた。そういえば、この城はこの女の家でもある。自分で自分の家を壊したのだ。


 女はポツと言った。


『外でやろうぜ』


 何も起きていないかのようにスルーを決め込もうとする女に怒号が飛んでくる。


『おい!キュイだろ、これ!?』


 空いた穴からコストイラが投げ込まれる。コストイラは顔面から着地し、鼻血を出してしまった。








 少女は夢を持っていた。


 役目を持たぬ子供の頃から同じ夢を持っていた。


 完璧な奥さんになること。


 それが少女の夢だ。彼女にとって完璧な奥さんとは夫の半歩後ろに立ち、夫を支えられる者。同じ夢を持て、同じように歩き、同じように進める。そんな女になりたかった。


 今の彼女は夢にどれくらい近づけているのだろうか。少女は自身の夫の三歩後ろを歩いている。少女にとってはそれだけで幸せを噛み締められていた。


 同じ空間を歩けている。目を潤わせるほどに嬉しかった。命を削り、命を支払ってまで手に入れた立場だ。嬉しくないはずがない。


「よし、ナギ。もうすぐのようだぞ」


「そう」


 結婚した今でさえ二人きりは緊張してしまう。素っ気ない態度をしてしまう。しかし、2人の時間は終わりを告げる。目的の場所に着いたのだ。幸せの時間が終わったことに腹を立て始める。顔がムッとしている。目の前には洗濯物を干している赤褐色の男がいた。


「よぉ、そこの兄さん。ちょっとお話いいかい?」


「全部干し終わってからでもいいか?」


「あぁ、待とう」


「チッ」


 ナギは待たなければいけない事実に苛立ちを隠しもせず、貧乏揺すりに舌打ちと相手を焦らす。夫は苛立つ妻を鎮めるべく頭と顎を同時に撫でる。少し表情が緩んだ。


 コウガイは相手の強さをヒシヒシと感じながら、努めて冷静さを保とうとする。強い、確実に。戦えば間違いなくカンジャの後を追うことになるだろう。具体的な策が思いつかないまま、洗濯物を干し終えてしまった。コウガイは改めて訪問者二人を見る。


 橙髪に黄色い目。身長はコウガイよりも少し高い。腰にある得物から、戦士だろうと予想がつく。立ち姿はラフなように見えて隙がない。


 もう一人はくすんだ金髪に爛爛と滾る赤い目。完全に狩人の目だ。数秒後には殺しに来るだろう。恰好からして剣士だが、スピード重視なタイプだ。


「改めてオレに何か用か?」


「最近このあたりで魔王軍の残党が住んでいるという情報が入ってな。まぁ、仲間からなんだけど」


「魔王軍?」


 グリードの言葉にコウガイの眉根が寄る。魔王軍と呼ばれるものは世界にいくつかある。先日解散したばかりな魔王インサーニアの軍や魔王フォンの”月の使者”、魔王ゴイアレの”滅天隊”など、有名な魔王軍はたくさんある。しかし、どの魔王軍のことを言っているのかが分かる。


「魔王インサーニアの軍か?」


「残党って言ってるんだから当たり前でしょ?解散したのはその一つだけなんだからさ!」


 ナギの剣は半ばまで抜かれている。コウガイに緊張が走る。すでに両者臨戦態勢だ。グリードが石突を押し、剣を鞘に収めさせる。


「まだ、話の途中だ。後で構ってやるから今は抑えてくれ」


「絶対?」


「絶対」


「分かった」


 何か言いたげだが、ナギは口を閉じる。それがナギの思ういい奥さんだから。剣を収め、一歩身を引く。しかし、殺気は倍以上に増していた。コウガイは汗を一筋流した。オレは今日、死ぬのかもしれない。


「残党はオレだ。魔王軍とはすでに縁を切っている。未練ももうない」


 空気が変わった。


「その上で、何か用か?」


「そんなこと口でなら何とでも言えるわ。証拠を出しなさい」


「まぁまぁ。でもナギの言う通りだな。未練がない、とか。縁を切った、とか。それを言われてはいそうですかって引き下がる問題じゃないんだ。君やそこで隠れて聞いている子がちょっとした気紛れで暴れられたら村の人は対処できないんだ。まぁ、よく分からん奴もいるけどな」


 いるだけで脅威だと言われコウガイは納得してしまう。自分のレベルは70だ。ちなみに現在のシキと同じである。


「オレは交渉事が苦手だ。言葉でアンタらを退けられるとは思っていない。結局オレにはこれしかねェんだ」


 コウガイが拳を握る。全体に緊張感が走る。グリードは悲し気に目を曲げ、ナギは嬉しそうに口を曲げる。


 今日は死ぬにはいい日だ。

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