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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
1.始まりの里
23/683

23.旅立ちの日に

 マゴットは砦を任された者だ。


 いや、いらない、価値のあまり見出されなかったところを押し付けられたのだ。


 事実上の左遷。


 マゴットは知らなかった?分かっていなかった?


 そんなわけがない。


 『彼』はそこまで馬鹿ではない。


 教えられていなかろうが、活躍すれば戻れるかもしれないと言われようが、関係ない。これが左遷だと分かっていた。


 こんな強者のいなさそうな人里の砦で、どんな活躍をしろというのだろうか。


 だが、今、この瞬間に、活躍の場が来た。


 速く中央に行けそうだ。








 頭上から光が落ちた。


 辺りは煙に包まれ、視界が消える。


 煙の中から現れたのは、青い髪に長いローブを身に着けた青年だった。


『君達が勇者一行様かい?』


 あまりのことに情報処理が追い付かない。


『誰か答えてくれないのかい?そこの男でも、そこの女でも誰でもいいからさ』


 いきなり現れた青年はアシドやシキを見て質問する。返ってこないことに苛立ち始める。


「確かにオレらは勇者一行だ。アンタの方こそ誰だい?」


『私は、<鴉巣生鳳>、火の守護者のカンジャだ。まぁ君達にも分かりやすく言うなら、魔王軍幹部さ』


 青年はさらりと言ってのけた。


 空気が変わった。


 カンジャの発言に、全員が警戒を強める。


『まぁそんなに急ぐなよ。私はね、別に戦いに来たわけではないんだよ』


「じゃあ、何をしに来たんだ?」


 コストイラがカンジャに疑問を投げかける。


 カンジャは片眉を上げ、口角も少しだけ上げる。


『決まってる。確認だよ』


 両腕を広げ、宣言するカンジャから炎が扇形に広がっていく。


 石にすら火が張り付いている。


『あれ?終わりかい?』


 カンジャはどこか期待した声を出す。


 返事がない。


 溜め息を吐き、首を横に振る。


 期待外れだったか。


 この場から去ろうと脚に力を入れた時だった。


 答えが音として返ってくる。


 立ち上がったのは。


 紫色の長い髪、同色の眼。シックなイヴニングドレスは、防御の魔法でもかかっていたのだろうか。ドクロが2つ割れたネックレスを手でいじりながらアストロが立ち上がる。


『驚いた。最初に立つのは別のやつだと思ってた』


「へっ。先に立たれるたぁな」


 アシドはふるふると生まれたての小鹿のように立ち上がる。次いでレイドが立ち上がる。


「防御力が高かろうが辿り着けない領域があるのよ」


 アストロが高慢に振る舞うと、カンジャは微笑を浮かべる。


『へぇ、成る程ね』


 カンジャが指を振ると、アシドとレイドが火柱に包まれる。アストロのものよりも高威力だ。


『でも、誤差の範囲さ。すぐに修正できる微量のね』


 アストロが焦り、魔術を放とうとする一瞬、カンジャが動く。


 アストロの眼前に何かが迫る。一瞬だが、アストロの思考が途切れる。


 蹴り飛ばされてきたマゴットの頭を避けると、カンジャの姿はすぐそこにあった。超至近距離からの高火力の炎の魔術。アストロの体が、吹き飛ばされる。きらきらと砕け散ったドクロのネックレスの破片が舞っていた。


『終わりだね』


 確認でもなんでもない。押し付けるような一言。その結果を確定させるための言葉。反論する余地なく、反論する人もなく終わる。


『誤差は多少あったけど、概ね計算通りだね』


 カンジャは辺りを見渡し、落胆する。


『もっとさぁ、頑張ってくれたって良いんだよ。そりゃぁ、今の段階でいい勝負ができるとは思ってもいないし、ましてや勝つとも思っていないさ。でもさ、一撃で半数がダウンってどうなのさ。もっと根性見せてもいいでしょ?ホラホラ』


 誰も聞いていないが、一人で煽り続ける。しかし、反応はない。


『あぁ、私のデータを狂わせてくれよ』


 カンジャの失望を月だけが見ていた。








 炎の波が押し寄せてきたことまでは覚えている。その後のことは完全に覚えていない。


 アレン達は廃砦となったこの場所で夜を明かしていた。


 明確な敗北。


 明瞭となった実力差。


 明らかとなったレベルの低さ。


 焚き火の前で皆が胸の内に似た気持ちを抱く。


 次こそは負けない。


 アレン達は夜が明けるより早く、西へ歩き始める。

始まりの里は街を中心に北東でゴブリンパレード。東に研究拠点。南東に大蛇の洞窟。南に火霊の洞窟。南西にお墓。北西に砦があります。北には2000メートル級の山が聳えており、滅多に人は寄り付きません。

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