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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
12.世界樹
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13.悪霊退散

 悪霊とは祟りを起こし、人に害をなす霊である。害をなす理由は諸説あるが、多くのものが未練によるものだ。アイツに殺された、アイツに大事な人を取られたなどと現世に恨みを持っていると悪霊として留まり続ける。それが発見されるたびにギルドでは依頼書が発行される。悪霊も魔物なので当然の処置なのだが、冒険者たちは敬遠する。普通の冒険者には、そもそも霊が見えないのである。


 霊が見えるには霊感が必要であり、依頼達成の証明も難しい。多くの冒険者がやりたがらない依頼だ。その分報酬が釣り上げられ、高額なのでそればかりをこなすゴーストバスターなるものがいるらしい。ちなみにコストイラ達はばっちり見える。勇者の力によるものだ。


 見えるのならば戦える。泥を跳ね上げ接近すると刀を振り上げる。悪霊の緑の髪が数本舞う。悪霊はそのイメージとは似合わない杖をどこからともなく取り出す。天使の羽根があしらわれた杖だ。その意匠の細かさはどう見ても観賞用であり、実践に持ち出すべきものではなさそうだ。少女向けの本に載っていそうな天使の羽付杖を、悪魔のような見た目をした悪霊が振るう。違和感しかない。とはいえ、威力は本物である。杖の先端から魔力が発射される。コストイラはバク宙で躱そうとする。


 しかし、魔力の塊はコストイラの上にくると、自ら爆発した。真上から風で押され、コストイラは背中から湿原に着地する。すぐに両手をつき足を振り上げ、回転の力を使い起き上がる。


 その瞬間、一陣の風が吹いた。


 杖を握っていた悪霊の腕が宙を舞う。驚愕する悪霊。くるくると踊る腕。その間にいるシキの体。


 窮地に陥った少年を救った美少女の姿に、コストイラは恋に落ちることなくブチ切れた。手柄を取られてたまるか。


 コストイラは燃えた。嫉妬と憤怒で全身を炎で包んだ。コストイラの周りの湿原が干上がる。コストイラは悪霊を素手で掴むと、幽霊も全身が燃え上がる。


「何の未練があんのかは知らねェが、成仏してくれや」


 コストイラが切ると、悪霊は真っ二つになり、煙は空に昇って行った。


「だ、だ、大丈夫ですか?」


「うん?大丈夫だけど?」


 コストイラが大丈夫と言ったのが聞こえなかったのか、エンドローゼはコストイラに魔法をかける。その様子に肩を竦める。


「仕留めたかった」


「獲られてたまるか」


 コストイラは舌を出した。








 ナカウに泊まっていたパーティの一つが人魚の洞窟までの道中、花畑に立ち止まっていた。エルフ特性の特殊なスコープをつけ、ドワーフ特性の特殊な武器を携えた男女がいた。


 ゴランとモタン。一部界隈では有名なゴーストバスターズだ。墓場に巣くっていたホロゴーストやフラップゴーストを倒した経歴がある。最大レベル5だ。


 今回、レベル12のゴランとレベル10のモタンは意気揚々とこの地まで来た。目的は無論幽霊退治だ。悪霊という噂は聞いていないが、幽霊というだけで悪霊だろうと決めつけている。


 2人は遠くから、スコープのスイッチを入れ霊を捕捉する。半透明な緑の肌。地から浮く体。周りを飛ぶ蝶。間違いない。あれだ。


 手元で何かをいじっているが関係ない。いつも通り初手で仕留める。モタンはドワーフから買った対霊の弓を射る。放たれた矢は真っ直ぐに進む。しかし、たまたま霊が頭を上げたので矢が素通りする。気付かれた。


 2人は逃げようと、咄嗟に体を反転させる。そこに狐の面をした子供がいた。身長は150㎝程の、着物を着た少女だ。下がスカートになっており、髪も腰元まであるので少女だと信じたい。


 ゴランもモタンも東方に行ったことがあるので着物を見たことがあったが、この地で見たのは初めてだ。それぐらい奇妙の光景が目の前にあった。


 霊の可愛らしい唇が動く。


『フォン様じゃん』


『え、様付けなんてよしてよ。他人行儀』


 やはり少女のようだ。声変わりのしていない年齢の女の子。しかし、いつの間にか後ろにいた。


『私達の仲じゃん』


『親しき仲にも礼儀あり』


『――――。ところで』


 狐の面の眼の穴がどこにあるのか分からないが、確実にゴラン達に向く。本能が訴えている。この少女とは敵対してはいけない。


 早々に逃げようとするが、前後両方がふさがれている。左右のどちらかしかないが、行き止まりだ。右側は人魚の洞窟であり、ゴラン達は推奨レベルに到達していない。左側は逃げられそうだが、大きく膨らまないと帰り道に出られない。それをこの少女が許すと思えない。


『君達は誰かな?』


 質問が来た。答えなければ不自然として粛清されるだろう。何とか誤魔化さなければ。


「お、オレ達は冒険者でよ、この花畑の花をいくつか摘みに来たんだよ」


 ゴランは咄嗟に嘘を吐く。そんな依頼は存在していないが、相手が調べている間に逃げてしまえばいい。兄の美しすぎる機転に妹のモタンは感嘆の表情を浮かべる。


 2人の職業も目的も知っているフォンはその表情を見逃さず、どうやって追い詰めてやろうかを考える。目の前にいるシラスタ教教祖シュルメの期待にも応えたい。


『その手に持っている武器は何?エンチャントされているようだけど』


「あぁ、スゲェだろ。オレ達にしちゃ高価な代物だぜ。オレ達も冒険者だし、武器を携帯したっておかしかねぇだろ。どこからいつ魔物が襲ってくるか分かんねェんだしよ。エンチャントは何だったかな。攻撃力上昇なのは覚えてんだけど、どれくらいかは忘れちまったぜ」


 嘘を吐いているが、話の筋は通るようにしている。順序がガタガタなのは焦っているからだろうか。


 フォンは仮面の間に指を入れ、器用に頬を掻く。


『その顔に装着している物は?』


「これか?これは視力の補正するやつだ。これがありゃ遠くのものも近くのものも調整一つで見やすくなる。魔物をすぐに見つけられるし、花を選別しやすい。超便利だぜ」


 間違いは言っていない。実際にある機能ではあるが、本質はそこではない。


 ゴランの顎から汗が落ちる。目の前にいる仮面の少女の意図が読めない。まさか、気付いているのか?


『目の前の、しかも手元の花を採るのに、ズーム』


「そ、そうなんですよ。便利なんですよ」


 汗が次々と流れ落ちるがきっと大丈夫だ。切り抜けられる。


 早まる鼓動も、浅い呼吸も、すべてフォンにバレているが、ゴラン達は自分のことで精いっぱいだ。


 フォンはそろそろいいかなと睨み、止めを刺しにかかる。


『花摘みしているはずなのに何で弓を射っていたの?』


 2人は息を呑んでしまった。敵かもしれない相手には見せてしまえば弱点になる反応。


「ま、魔物がいたんだ。やられる前にらるのは当たり前だろ」


『手元見てたんじゃないの?』


「お、オレは手元を見てたけど妹が見張りをしてたんだ」


「え、あ、そ、そうだとも。兄ちゃんの方が草花の採取に慣れているからね。うん。そう。慣れているから任せていたんだよ」


 少女は面の中に指を入れて眼を擦っている。


『その反応さ。言い訳っぽいぜ。ねぇシュルメ。ここに魔物っていた?』


 ゴランとモタンは再び息を呑んだ。そして急に話を振られたシュルメは人形を取り落としてしまい、慌てて拾う。


『魔物はいなかったよ』


 その答えが出ききる前にゴランがシュルメに向かい走る。対霊の剣を抜く。これがあれば触れただけで大ダメージだ。


 シュルメが右腕を振るうと、蝶の形をした魔力が舞う。剣が蝶に触れると小さく爆発を起こし、動きを止めさせる。


『残念』


 狐の面をつけた少女に頭を掴まれたと気付く頃には、ゴランは花に顔を埋め尽くされていた。


「兄ちゃん!?」


『さっさと連れてどっか行っちゃえば?ゴーストバスター君ちゃん』


 モタンは目を見開くとすぐにフォンを睨み、兄を背負い、街へ行ってしまった。


『で?何しに来たんですか?』


 シュルメは手元の人形をいじりながら聞く。


『お?そのお人形は?』


『13年くらい前に貰ったんです。信者の方からの贈り物です』


『どうせ、コス君でしょ。でも、羨ま』


『月までもっていく人いないですもんね』


『マジ、誰か来て』


 肩を落とすフォンにシュルメは花冠を被せる。


『これで我慢してください。で、何しに来たんですか?』


『教祖同士で飲まない?』


 フォンは懐から酒を取り出す。シュルメはとてもいい笑顔で返す。


『私、下戸なので』

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