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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
1.始まりの里
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21.物見兵の砦

「今日でもうこの街を出ます」


 アレンの宣言に驚いたのはエンドローゼだけだった。そのことに気付いたエンドローゼは少し小さくなる。誰もフォローに回ることなく、アストロは先を促す。


「で?どこに行くの?」


「そんなに遠くはないです。向かう先は隣町の治癒院です」


 隣町ならそんなに路銀が必要だったのだろうか?そんな疑問を誰もが口にせず、さっさと準備に取り掛かる。








「で?何で馬車じゃないの?」


 アストロが苛立っている。しかし、これは仕方のないことだ。治癒院までの道は隣町と言えど、その長さは意外と長い。徒歩で行こうとする者は相当の物好きか、もしくは途中に用事のあるものくらいだ。アレン達はそのどちらにも当てはまらない。ただの変態として見られているかもしれない。


「魔王軍関連で、この先の砦が使えないそうです。乗っ取られたのだとか。奪還するまで馬車は使えないそうですよ?」


「あの馬車は何?」


「えっと。何でしょうね?」


 摑まされた情報は嘘だったのか何なのか。ものすごい鋭い目つきで睨んでくるが、アレンは必死に無視する。


 四方を山で囲まれている始まりの里は、天然の要塞だ。しかし、外部との交流をできる出入口が塞がれてしまうと孤立してしまう。そのために砦が建てられている。魔王軍への牽制の為にも建てられたようなのだが、先日乗っ取られたというのでは不甲斐ない。


「で?倒しに行くの?」


「無茶はしません」


 要は、遠くから見てみて無理そうなら山を越える道を通るということだ。








『ワッワッ。チカヅテクル人ガイルヨ』


『シッシッ知ラセナキャ』


 砦の中は大慌てだった。


 体長約25センチメートルの妖精が慌ただしく動いている。


 砦内はこの妖精達含め5体しかいない。その中でも、砦の中も外も妖精3体しか警備に当たっていない。


 2体の妖精が隊長の妖精のところへ急いで報告に行く。


『テ、敵!』


『敵デスゥ!』


『ナ、ナニィ!?ナラヴァ、ヲイ払エ!』


『ファイ!』








 アレン達は砦の中には入ろうとせず、少し離れた場所から観察していた。


「魔物、いないな」


 レイドが呟く。レイドの言う通り、魔物がどこにも見えない。隠れながら砦のどこからかからこちらを見ているのかもしれない。


「来る」


 シキが斜め上を見上げ、短く言葉を発する。


『フェアッ!ミツカッタ!』


『キヅカレチャッタ!?』


 見上げると、羽の生えた25センチメートル程の身長の妖精がいた。滅茶苦茶に慌てている。しかし、1体だけは慌てていない。


『撃テ!』


 3体の妖精が光の球を打ち込んでくる。アレン達は妖精達の攻撃を躱していく。


 いや、それよりも。


「喋ったか?」


 そう、喋ったのだ。


 魔物が喋るという記録は存在しているものの、その魔物の存在自体は疑われている。もし、これが事実だとしたら、人間とは何なのか、その判別が境界が分からなくなってしまう。


『ウーン。当タンナイヨ。ドウスル?』


『追イ払エレバイインダヨ』


『アノ人間、戦ウ気満々ダヨォ』


 妖精達は泣きそうな声で焦っている。アレンが弓を射って、妖精達を狙う。3妖精はびくりと体を震わせて、戦闘態勢に入る。


『ク、来ルナラ来イ!』


 虚勢を張る妖精に矢を放つ。


『ウワッ!危ナッ!』


『アノ人間ガ下手デ助カッタ』


 アレンは顔を覆った。


「今は落ち込んでいる暇はねェだろ」


 コストイラがアレンの肩を揺する。


「燃やす」


「え、凄い物騒」


 アストロの発言にアシドがギョッとする。


『エッ?』


 会話は聞こえてこなかったが、妖精達さえも魔力が集約していくのを感じ取り、焦り始める。妖精達はずっと焦り慌てている気がしてきた。


 炎の塔が空へと昇り、3妖精を巻き込んでいく。


『ウヘァアアアアッ!!?』


「前座は終わり。さぁ、中に入りましょう」








 石造りの砦は元々検問や監視塔としての役割の為、その大きさは小さめで、多くの敵はいないだろうことを示していた。ならば、罠を仕掛けてくるかもしれない。


「入口に罠は、ない」


 シキがナイフを空中にふるふると振り、罠探知をする。アレン達は警戒しながら奥へ進んでいく。


『ギダナ!』


 全てが濁っている声がした方へ体ごと意識を向けると、悪魔のような見た目をした悪魔がいた。


『コノ我ガキザマラヲ追イ払イ、名ヲ授カルノダ!』


 悪魔ディアボロスは言うが早いか技を行使する。レイドが何か重いものが乗っかったように腰を落とす。


『ヌゥウウン!』


 手を水平に薙ぐと闇色の球が現れ、発射される。


『マヲウグンダル我ガ、マヲウザマノ加護ノアルコノ我ガ敗ゲルハズガナイ』


 野太い声で宣言する。すると、ディアボロスは疾走し、エンドローゼを狙う。その鋭い爪に当たったら、エンドローゼの細切れなど容易いだろう。


『グルゥアッ!!』


 自信のある一撃だったのだろう。しかし、アシドに防がれてしまう。散る火花の中で、両者の視線が絡まる。アシドは勢いを殺すことなく、槍を薙ぐ。


 ディアボロスは辛うじて避け、翼を広げ、空へと逃げる。


 技から解放されたレイドがエンドローゼの前に立つ。


 ディアボロスは己の心を鼓舞するように吠える。








 吠え声は砦の中に響いた。


 その熱意を、覚悟を届かせた。


 ただ1人の上司に届かせた。


 ガシャリ。


 その者には性別がないため、仮に『彼』としておこう。


 『彼』はこの砦を任された者だ。こんな辺鄙を砦を。


 いわゆる左遷である。


 しかし、『彼』は左遷だとは思わなかった。


 『彼』は声に導かれるままに剣を執った。

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