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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
11.妖怪の山
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2.秋めく滝

 あまり風が吹いてこない。崖の上を通り過ぎており、なかなか下まで降りてこないようだ。人が感じる暑さの要素には、風の有無がある。風のない16度より、風のある20度の方が涼しく感じることがあるのだ。


 風がない道。直射日光。運動中の体。体感温度がぐんぐんと昇り、コストイラに至ってはすでに汗で地面に線を書いている。


 左の手の甲で汗を拭う。コストイラが歩きながら後ろを確認する。


「暑くね?」


「それ」


「風が少しでもあればな」


 答えるアストロは汗でドレスが肌に張り付き、体のラインがバッチリと浮き出てしまっている。目のやり場に困る。レイドは風を所望し、項垂れる。コストイラ同様、汗で線を作る。アレンとアシド、エンドローゼは線までは行かないが、点々と汗を落としていた。シキは汗一つかいていない。


「?これ」


 シキが何かに気付き、指をさす。指先に見えるのは一本の樹木、その幹。


「………齧られた跡がある」


「生き物が住んでいないわけじゃなさそうだな」


 アレン達は、己の勘違いを反省し、キョロキョロと見渡した。木の幹の齧られた跡。薄っすらと存在する獣道。風化したフン。


 明らかに何かいる。そして、おそらくこれは縄張りを示している。ここからは慎重にならなければなるまい。


「なるべく見通しのいい場所を歩きましょう」


「ま、どこから来るか分かんねェもんな」


 八方に気を配りながら、軽く答える。崖から少し離れる。もしかしたら穴を掘って登場したり、上から岩が降ってきたりするかもしれないからだ。少しゆっくり進む。警戒の証なのだが、一向に変化は訪れない。水の匂いが強くなってきた。ドドドドと聴覚にも存在を訴えてくる。


「魔物の姿が見ませんね」


「もしかしたら滝壺で水でも飲んでいるのかも」


 アレンはキョロキョロと辺りを見て、アストロは自身の見解を述べる。目の前に霧が見えてきた。通るだけで濡れていく。コストイラが根本から髪をかき上げる。涼しく、気持ちよさそうだ。アストロはぴったりと服が張り付き、忌々しそうな顔をし、コストイラを蹴飛ばしている。


 滝が見えた。一本の滝が途中から二本に分かれている。霧のせいでうまく見えないが、滝の高さは20mほどか。二股になる位置は5mくらいか。


 不意にアストロの服が引っ張られる。見ると、エンドローゼだった。その後も摘まみ続けている。非常に可愛らしい光景だ。霧のせいで霞んで見えるのが恨めしい。エンドローゼはそんなアストロには気付かず、一点を指す。


 霧の中に1つの影がある。霧のせいで確定できないが、魔物だと断定できる。人の中には四足歩行する者はいない。しかし、目の前な影は四足歩行だ。薄っすらと青みがかっている。アストロが一歩近づこうとすると肩を叩かれる。シキだ。


「ブルードラゴン」


 短く、目の前の魔物の正体を告げる。後ろを見ると男どもは滝に夢中だ。


「アイツら、終わったら殴る」


 シキがナイフを抜く。最低限のその動きは、空気をうねらさずただ、霧を斬った。ブルードラゴンは暢気に水を飲んでおり、こちらに気付いていない。シキがアストロに視線を送る。


――良い?


――良いわよ。


 葉が一枚落ちる。ひらひらと舞い、川に落ちる。ブルードラゴンの目がその落ち葉を捉える。その端、何かが動いているのが見えた。


『ウォ?』


 首をゆっくりと動かす。ドスリと首に衝撃が走る。


『ヴォアッ!!』


 短い叫び、それにより男達も気が付く。シキはブルードラゴンの攻撃を掻い潜り、ナイフを突き立てる。アストロは指先から弾丸めいた速さの魔力の塊が射出される。見事に目玉を射抜く。シキがナイフでもう片方の眼玉を刳り抜く。分離された目玉を投げる。先頭を走っていたアシドがキャッチする。


「うおって、また目玉かよ」


「おめでとう」


 速度を緩めたアシドをコストイラが追い抜く。


「終わり」


「よっしゃー、オレが止めを~~~~!?」


 コストイラが張り切ったままブルードラゴンの死体に突っ込み、滝壺に落ちた。


「なにやってんのよ」


「くそぅ」


「これやるから機嫌直せって」


「あん?おぉ、っていらねェよ」


 コストイラは肩を叩かれ、差し出されたものを受け取ろうとするが、すんでのところで止まる。渡されたものはブルードラゴンの目玉だった。


「オレ、いらねェんだけど」


「おまっ!オレ今一個すでに持ってんだよ、目玉!二個入らねェんだよ、二個は」


「目玉はな、二個で一対なんだよ。二個揃って初めて真価を発揮すんだぞ」


 目玉の押し付け合い、もとい、醜い争いを繰り広げる2人を、アレンを除いた4人は冷たい目で見守る。シキに至っては絶対零度だ。


 アレンはアシドに羨ましそうな眼差しを向ける。その視線にコストイラが気付く。


「ほら、アイツ欲しそうにしてんぜ」


「何?そんなに欲しいなら仕方ねェ、お兄さんとしてはあげねェとな」


「え、いらないです」


 アレンはバッサリと切った。アレンにとって重要なのは目玉ではなく、シキからもらったという点だ。


「アンタたちいつまでくっちゃべってんのよ!通り道見つけたわよ」


 アストロの怒号に3人は動きを止める。結局目玉はアシドが2個を所持している。なぜ律義に持っていくのだろう。その辺に捨ててしまえばいいのに。


「それで、道ってどこにあんの」


「その前にエンドローゼに感謝なさい。アンタたちが馬鹿やってる間に、あの子が見つけたのよ」


「「「ありがとうございます」」」


「ええっ!!?い、い、い、良いんです。ふふ、ふ、普段、お役に立ててい、い、いないので」


 3人が直角に腰を折り謝罪すると、エンドローゼはアワアワ焦ってしまい、手がワタワタと動いている。


「自己評価が相変わらず低いわね」


「ふぇ?」


「何でもないわ」


 アストロに頭を撫でられ、目を細める。


「それで、道はどこにあんだよ」


「あそこよ」


 アストロの指先からその示す方向へと視線を移す。


「滝?」


「滝ね」


「は?何?滝登りでもすんの?」


「違うわ」


「じゃあ」


「滝の裏よ」


 移動すると、アストロの言う通り、滝の裏に道がつくられていた。どう見ても人工的につくられたものだ。入口の横に金属のプレートが打ち付けられている。そこには”河童の抜け穴”と刻まれている。人間の持つ技術では、再現できない。それほどに細かい文字で彫られている。


 抜け穴と名付けられたほどだ。きっとどこかに通じているはずだ。そう思った7人は河童の抜け穴に足を踏み入れた。

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