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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
9.先駆者
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9.これからの話をしよう

 朝起きるとアンドリューがいなくなっていた。これからは自分でやれってことだろうか。僕がリビングに行くと家族は全員いた。父は地元新聞を広げ、祖父は祖母の遺影に話しかけ、母は朝ご飯の準備を、妹は母の手伝いをしながら露店市で買った髪飾りを自慢していた。この前の戦利品か。


「おはよう。母さん、手伝うよ。何か僕にできることある?」


「あら、おはよう。もうできるからテーブルを拭いてちょうだい」


「お兄ちゃんおはよう。どうこの髪飾り、どう」


 妹がうざい。おしゃれに目覚めた女の子は感想を求めているようだが、僕には何も分からない。しかし、それでもわかるのは、ここで褒めると可愛い妹は天狗になるだろう。


 僕は母の言う通り、テーブルを拭き始める。父が新聞を閉じた。


「アレン。久し振りに木を切りに行くか?」


 僕は一瞬動きを止めてしまうが、テーブルを拭き続ける。


 どうしようか。木は切りたい。いや、切っている父を見たい。


 しかし、もうやりたいことがある。


「ごめん父さん。僕はやらないといけないことがあるんだ」


「………そうか」


 父は寂しそうな顔をして答える。悪いことをしてしまったか。確かにここには戻れないかもしれない。それは父も分かっているだろう。申し訳ないと思う。しかし、今、ネガティブになった状態が終わった、このタイミングで父の仕事姿を見たら、ここに根付いてしまいそうだ。


 だからこのタイミングで家を出るのだ。もう一度皆に会うために。


 朝食を済ませると昨日のうちに用意しておいた荷物を担ぐ。


「よし、行こう」


 玄関には家族がいた。見送りをしてくれるのだろうか。


「何をするのか知らないが頑張れ」


「お兄ちゃん、お土産よろしく」


「必ず帰ってきてね」


「………また木を切ろう。一緒に」


 祖父、妹、母、父と順に短い言葉をかけられる。駄目だ、泣きそう。


「頑張ってくるよ」


 僕は皆がいるのであろう所に向かった。








 いつの間にか集合場所になっていたカフェの扉をアレンが開けた。


「来たな」


「遅ェ」


「いつまで待たせんのよ」


 怒られた。アレンが辺りを見渡すと13人いる。アレンは一番最後だったようだ。


「待たせてしまったようで申し訳ないです」


「座れ」


 アンドリューはアレンに命令を出す。アレンは何も言わず従い、着席する。


「話って何だ」


 コストイラが切り出す。


 橙色の髪をした男がテーブルに肘をつけ、現勇者一行を眺める。手を組み、作った台に顎をのせる。


「話したいことを一言に纏めると、そうだな。夢を託したい、だな」


「夢」


「そう、夢」


 アレンの呟きにグリードは器用に顎を乗せたまま頷く。


「お母さんが言ってた?」


「そう、あれ」


「ちょ、ヲヌネ、フライングだぞ」


「てへっ」


 グリードが詰めると、ヲヌネはすぐに左手を頭の後ろに置き、下を出し、視線は明後日の方を向いている。かの奥義、てへぺろである。


「可愛いけど止めて。話が進まないから」


「あ、はい」


 ナギに言われ、ヲヌネはすぐさま止める。ナギの無駄嫌いと死に急ぎは旧勇者一行には周知の事実である。コホンとグリードの咳払い。


「いきなり言われても、まず夢って何だって話だよな。オレだってそう思う。ってなわけで話そう。オレ達の夢を」








 あれはいつだったか。15年前ほど、魔王アメアリンドを倒したときぐらいだ。オレ達はある事実に気付いた。知ってるか?魔王は1体だけじゃないんだぜ。オレ達が倒した後もインサーニアって魔王が跡を継いだ。


 つまり、お前らも終わりじゃない。全部の魔王を倒すことが夢かって?


 違ェよ、早合点すんなって。そんなの通過点にすぎねェよ。


 魔王がいつごろ生まれたかって知ってるか?


 違う。250年ぐらい前は観測された年代だ。生まれたのは分かっていないんだよ。


 じゃあ、勇者はいつだ。250年前?いや、350年前だ。


 勇者の方が歴史上早い。なんでなんだろうな。


 つまり、勇者の役目は魔王討伐じゃないんじゃねェのって話だ。


 魔王を発見したのは6代目、初の女性勇者のツセコイルだ。月の中に見つけたらしい。たまたま望遠鏡を覗いているときに見つけたんだってよ。あれって、そこまで見えんのな。


 5代目のヌネは魔大陸を発見したそうだ。大陸の探索中に戦死したらしい。死体が見つかってないんだと。もう魔物に食われたって説が有力だ。


 4代目、ゴートは不思議な奴だったらしい。その刀だって開発したのはゴートって話だ。他にも今の農業や銀行、冒険者ギルドの仕組みも使えたとか。セウユとミソも作ったらしい。今は作れる職人がいねェが自動人形を作った、まぁ開発したのもゴートらしいぜ。な、凄いよな。


 何の話だって?


 確かにちょっとズレてたな。悪い悪い。


 勇者ってのは世界が助けてほしい、救ってほしいって願った時に生まれると思っている。350年も途切れないんだぞ。おかしいと思わないか?世界の最初の願いって何だろうな。


 なぁ、勇者。


 世界を解いてくれないか。


 そうすれば勇者は生まれてこないと思っている。


 勇者ってのはいるだけで努力を怠るやつが出てくんだ。勇者のいない世の中は不幸だが、勇者のいる世の中はもっと不幸だ。


 根本から解決しねェとな。








「なんで、グリード達で行かないんだよ」


 当然の疑問だ。グリードは質問者の方を向く。


「深層っていう場所があんだ。オレ達はそこを超えられなかった」


 グリードは天井を見つめる。


「だから託すんだよ」


 この言葉にだけ、今までのような軽薄さはなかった。その事実が、現勇者一行の気を引き締めさせた。


「冒険者だった店長は何か言うことあるか?」


 グリードはカウンターの方を見る。実はグリードのコネで今日、このカフェは貸し切りになっていた。


「あるわけねェだろ。こちとらヂドルまで行ったことねェんだぞ」


 グリードは商品であったリンゴをぶつけられた。








 バンツウォレイン王国。


 それがシキ達の属している国名だ。


 国王ロンフォース・アガテル・バンツウォレインは頭を抱えていた。その手には一枚の紙があり、紙には勇者が魔王を倒したことが書かれていた。


 本来なら喜ぶべき報告であるのに、ロンフォースには悩みの種となっていた。理由は先代勇者も話していた一件だ。


 魔王は補充される。


 このことを知っているのは世界広しといえど、上位2%ほどだ。人間に限ればだが。知らない国民の間では対魔王軍運動が行われており、解体しろという声が高まっている。だからといっても真実を伝えれば市井は恐怖と混乱にまみれるだろう。放置すれば国王への反発と反感は強まる。


 だからといって、それを回避する手立ても思い浮かばない。


 何か妙案はないものか。


 ロンフォースはふとかの騎士王アスタットの言葉を思い出した。「上に立つ者はどんな時も堂々としろ。丸まった背中についてくる者はいない」


 そうだ、堂々としよう。ロンフォースは国民に堂々と嘘を吐くことにした。


「対魔王軍は、魔王軍のための部隊。魔王による被害の修復作業も対魔王軍の仕事だと言い張れるのではないか?」


 ロンフォースは自分の案に納得した。早速、ロンフォースは資料をつくるように命を下した。








 チェシバルの街はいまだに恐怖に支配されていた。


 アンナを殺したものが見つからないのだ。殺され方からして、犯人は獣だ。ただ、獣であること以外分からない。何の獣があんなを殺したのか。それが分からない限り、恐怖が晴れることはない。働き方も変わった。


 人は塊で動くようになった。そして、獣に遭遇しないように時間が短くなった。


「どうした」


 一人の樵が仲間に声をかける。仲間は首を横に振った。


「獣がどっかにいんじゃないのかって、気になっちまって」


「止めろよ、そんなこと言うの。お前の恐怖をオレ達にまで伝えんなよ」


「す、すまん」


 男は謝ると、妻に作ってもらったサンドウィッチを頬張った。


「ん?何だ、あれ」

 2人の会話に入ってこなかった白髪の樵が指をさした。


「何だよ。お前も恐怖を配んのか?」


 禿頭の樵はげんなりしながら視線を向ける。白くもこもことしたものがこちらを見ていた。まさか、獣と思ったが、すぐさま否定する。


 あれは羊だ。羊飼いが追いかけているのだろう。驚かせやがってと禿頭の樵は舌打ちすると、異変に気付いた。羊飼いが現れない。


 まさか。今まさに話していたせいか、獣の可能性が頭にちらつく。ゴクッと誰かの唾を飲む音が聞こえた。自分のか他人のかさえ分からない。


「だ、だ、大丈夫さ。オレ達には斧がある」


 声が震えており、大丈夫ではなさそうだが、確かに樵達には斧がある。樵達の斧を握る力が増した。森に入ると3分程で鉄臭いにおいがした。樵達は恐れながらも前に進む。臭いの元に近づいている。


 そこに羊飼いの少女の死体があった。下半身がなく、喉のない死体が無造作に落ちていた。


「ひゃぁああっ!!?」


 男が一人尻餅をつく。一人が木に背をつけ、膝をがくがくとさせ、一人は斧を構える。見渡す限り周りにはそこには何もいない。もしここに現代知識を持つ医者がいれば、死体は死後1時間経っていると分かっただろうが、彼らには分からない。


 この日を境に殺害数は激増した。4か月の間に8人が喰われた。中には家の庭でも死体が発見された老婆もいた。チェシバルの中心から60キロメートル離れた場所でさえ死体が見つかった。獣は示した。安全な場所などない、と。


 人々は畏怖の念を込め、ベートと名付けた。意味は、凶悪な獣、だ。








 時間は旧と新の勇者の会合に戻る。


 コストイラはリンゴをぶつけられ赤くなった額を擦るグリードに問う。


「そんだけ語ってたけどよ。結局先々に行くゴールを示されたけど、オレ達は次、どこに行くべきなんだよ」


 グリードはきょとんとして天井を見る。


「あれ、どこがいいんだ?」


「奈落」


「魔界」


「天界」


「彼岸」


「世界樹」


「ねぇ、みんな馬鹿なの?境目でしょ」


 一斉に土地の名を言われたので、一同混乱した。


「おすすめの理由は?」


 アストロがナイスな質問をしてくれた。ありがとう、アストロ。


「おすすめは奈落一択よ。あそこには闘技場があって、より鍛えることができるわ。しかも実践向きよ」


「ナギの言うことは聞くな。こいつはただのバトルジャンキーだからな。奈落の推奨レベルは80前後だ。それに比べて魔界は低い。それに酒は美味しいし、街もある。魔術や魔法の研究施設は多いし、酒が美味い。宝物だってあるし、酒が美味い」


「酒しかないのか。我が薦めるのは天界だ。奈落同様、試練がある。受ければ確実に成長できるぞ」


「私は彼岸だ。彼岸には太陽神を拝む者や精霊が住んでいる。あそこは戦いやすい敵が多い」


「世界樹だろう。あそこには奇跡が集う場。行くべき場所だ」


「今出てきたのは全部適正レベルが60以上あるからね。レベル50くらい、いや、55くらいかな?まぁそれくらいの魔物が出てくるのが境目。そして境目なら、体を慣らすこともできるでしょ」


 ヲヌネ以外の旧勇者達は背凭れに身を預けた。皆ヲヌネに負けたようだ。


「確かに、でかい奴には慣れておいた方がいいか」


 グリードは一人納得し、うんうんと頷く。


 いや、納得してないで説明してくれ。


 グリードは鰓をポリポリと掻く。説明が面倒なようだ。


「ま、遭えばわかるよ」


 そう締めると、グリード達は立ち上がった。ご指導ご鞭撻はこれで終わり。ここからは自立しろということだろう。


 席を立つ旧勇者達に続き、現勇者達も立ち上がった。


 アドバイス通り、境目に向かうことにしよう。

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