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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
8.魔王インサーニアを討て
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26.歪んだ魂

 エンコという少年がいた。


 産まれた時から村の周りには魔物が住んでおり、他の村との交易はするだけでも多大の苦労を要していた。村にはヒトが少なく、人口はわずかに30人ほどだった。エンコと同年代の子は一人もいなかった。上も下も5歳以上も離れていた。遊んでくれるような相手はいなかった。


 ある日、村が騒がしくなっていて、エンコは昼寝から起こされた。少々不機嫌になりながら家の外に出ると、大人たちは宴会をしていた。聞くと、辺りを巣くっていた魔物を倒してくれたらしい。その恩人の名前は退治屋のフラメテ。








『フンッ』


 エンコの両手から紫色の煙が噴き出す。魔物のものと相まって2倍の速度で攻撃力が下げられる。しかし、一撃で倒せなくなったのならば百撃叩き込めばいい。煙を振り切るほどの速さでアシドとシキが動く。


『ぐっ!?』


 あまりの速さにエンコはたじろぐ。しかし、すぐに立て直す。魔力の塊を体の周りに浮遊させ、爆発物の盾を作る。アシドは槍を引っ込める。近距離の爆発はエンコにも被害があるが、アシド自身も爆発が怖いので攻撃できない。


『フン』


 エンコは腰元に佩いていた剣を抜く。無駄な装飾がゴテゴテとついた、儀式用の剣だ。戦う用ではない。エンコが剣を天に掲げる。


『この力はインサーニア様の為に!』


 魔力の塊を携えながらこちらに突きを繰り出す。








 魔物が死んだ。しかし、エンコは独りだった。独りのままだった。フラメテは村を救っていったが、エンコは救われなかった。しかし、そこで救ってくれるものが現れた。それがインサーニアだった。


『私とともに来るか?』


 すでに浸食が始まっていたエンコとコミュニケーションしてくれる人がいなかった時に、話しかけてくれた。エンコは救われたと感じた。身も心も両方が救われた。エンコにとってインサーニアは神に見えた。エンコはインサーニアとともに歩むために禁術に手を出した。骨になり、エンコはインサーニアを祀る宗教を創始した。


 エンブレムも考えた。力を表す剣。その横に生えている6枚の翼はそれぞれ、正義、心、愛、思考、信仰、勝利を表している。インサーニアにプレゼンしたとき、どこか困ったような顔をしていたが気のせいだろう。


 創始して10年と少しが経つが、信者の数はそこそこだ。他の幹部は誰も入ってくれないのは由々しき事態なのだが、説教すれば必ず入ってくれると信じている。


 エンコにとってインサーニアはすべてだ。行動理念はインサーニアのため。考えることはインサーニアが最も得する行動は何か。実はインサーニアはエンコについて辟易しており、釘を刺したり、苦情を言ったりもしてきたが、エンコには届かなかった。インサーニアは無駄だと悟り、放置することにした。








 エンコの目の前に魔力の塊が出現する。これは自分のものではない。躱さなければならないが、その前に自分の魔力の塊とぶつかる。ドガンと轟音を立てながら爆発し、エンコの体が吹き飛ばされ巨大な魔物の体にぶつかる。勢いが殺されながらもそのまま倒れこむ。


 魔物の顔を隠していた布がはがれ、顔が明らかになる。やはり骸骨だった。薄紫色に染まっている骨はすでにこと切れており、反応がない。


 エンコの周りから魔力の塊が消える。儀式用の剣を握り、起き上がる。虐げられてきた孤独な人生を救ってくださったのはインサーニア様だ。この命はインサーニア様の為に。


『インサーニア様、万歳っ!!!』


 刺すように真っ直ぐ剣を突き出し、アシドを殺そうとするが、アシドは槍で軌道をそらしローブを貫く。槍は骨の隙間を抜けており、攻撃が通っていない。


『フンッ』


 エンコは無茶な体勢からアシドを狙う。しかし、眼窩の前から何かが現れた。それは顔面にあたり、体が後ろへ飛ばされる。槍は抜け、儀式用の剣が手から離れる。顔を上げると赤髪が刀を持ってアシドの横に立っていた。顔を叩いたのは刀か。


 剣がない。しかし、エンコは魔術も使える。両手を突き出し、濁流を顕現させる。対してアストロも濁流を出しぶつける。アシドとコストイラは慌てて横に逸れる。


『インサーニア様の為にっ!!』


 吐き気を押しとどめながら、さらに魔力を込める。エンコは絶対的で圧倒的な信仰心がある。エンコは信じている。インサーニアを信仰し、祈りを捧げ続けていれば自分の信じる未来に行けることを。だから目の前の敵を倒さなければならない。


「祈っているだけじゃ敵は倒せねェぜ」


 冷静な、ひどく冷えた声音でエンコに告げる。直後にアストロ側の魔術が強まり、エンコは押し込まれていく。


『ぐぬっ、なぜだ。インサーニア様を信じぬ異教徒どもに負けるなど!!』


「ふーん。じゃあ信仰心が足りないんじゃない?」


 エンコが濁流に飲み込まれる。








 私は信仰心が足りなかったのだろうか。うぐ、まだ吐き気がある。


ーー救われたいか。


 何だと。


ーー貴様の苦しみを解放してやろう。


 何を言いたいのか分からん奴め。私はすでに救われているのだ。他者からの助けはもう不要だ。


ーー本当にそうか。


 うるさい奴だ。姿も見せずに救うだの助けるだの言われても胡散臭さしかあるまいよ。もし私が苦しんでいたとしてもその手は取らんだろうな。


ーー闇に埋もれるから解放されんのだ。


 地味に会話が成立しているのか怪しいな。しかも相変わらず何が言いたいのか分からん。


ーー光を求めよ。


 光?さっきから鬱陶しく光っている目の前のこれか?貴様の仕業なら明るさを少し調節してくれ。眩しくて敵わん。


ーー私はお前を恐れない。


 貴様と言ったりお前と言ったり安定せんな。


ーー拒むのか。


 最初からそう言っていたと思うが。言っていなかったとしても態度で示していたと思うぞ。


ーーーーーーそうか。








 パキンと軽い音とともに水晶のような宝玉が割れる。


「これで6個目」


「ああぁ、あと1個だ」


 コストイラは残った1つの塔を見る。左手は鞘を握っており、力が入っている。最後の塔にはそれだけの強敵がいるということだろうか。

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