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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
8.魔王インサーニアを討て
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19.聖なる白龍

 この龍は龍なのだが、知識のなかった冒険者達によりドラゴンとして名付けられてしまった。本来であれば聖龍と呼ばれるべきなのだが、現在はホーリードラゴンと呼ばれている。プライドの高い龍にとって屈辱的だ。龍は竜とは違う。人間に置き換えて考えれば日本人を中国人と呼んでいるようなものだ。侮辱以外の何物でもない。


 しかし、この龍は違った。元々、龍の峠に住んでいたダンナルミョウジンダイと仲が良かったのが原因だろう。自分の存在が堕とされたにもかかわらず、友と同じ立場になれたことが嬉しくてたまらなかった。仲間の龍からは迫害を受けていたが、聖龍にはどうでもよかった。ただ、ダンナルミョウジンダイといられればなんでも良かった。


 そんなある日だ。英雄や勇者という言葉を多用する自称主人公の男が現れた。


「ホーリードラゴン?ホーリーは聖なるもの、ドラゴンは龍。つまりは聖龍!良いね!名前の響き的に主人公で英雄たる僕の側にふさわしいね。さぁ、僕と共に来い」


 提案などではなく命令だった。聖龍は心の中で溜め息を吐いた。何だ、こいつは。こんな妄言を吐いて、痛いやつだ。そんな考えは直後、力、そして実力で潰された。


 その者は強かった。聖龍は従うしかなくなった。








 吐き出されたブレスはレイドによって防がれた。しかし、楯は攻撃のすべてを防いでくれるわけではない。レイドは顔を歪めた。アレン達には明確な弱点があった。対空だ。今までの敵は飛んでいても下に下りてきていたので何とか誤魔化してきていた。遠距離の攻撃ができるのはわずか3人。実際に攻撃ができるのは1人減って2人となる。しかも、アレンは戦力とは呼びづらい。矢に威力はなく、速度も遅く、殺傷能力に乏しい。さらに当たらない。今のところ、気を引くことにしか使えない。


 つまり、遠距離はアストロ頼り。そのアストロも今の攻撃が通用しなかった。有効打がない。


 聖龍はそれを理解した。だからこそ、下りないことに決めた。本来であれば噛みつきに行きたいところだが、時間がかかっても倒せるのならそちらを選ぼう。


 上から雷が落ちる。炎よりは効いたが鱗5枚分だ。この龍の体には鱗は1000枚以上ある。無視していても何の問題もあるまい。矢は届いたり届かなかったり。届いたとしても鱗にカキンと弾かれ、落ちていくだけだ。鱗1枚分にもならない攻撃など無視してもいいだろう。


 何もできず苛立っていた赤髪が茶髪に話しかけている。作戦会議だろうか。悠長に待ってやるほど甘くはない。聖龍はブレスを口内に溜めていく。そのブレスに矢が当たり、爆発する。先端にグリフォンの爪の付いた特別性だ。聖龍は己の口から出る煙を嫌がるように首を振る。口からの煙が晴れる頃、聖龍よりも高い位置で魔素が集まっていく。


 赤髪の戦士だ。炎を纏い、聖龍よりも高い位置にいる男は、炎の尾を引きながら一気に落下してくる。両者の位置が近い。ブレスは間に合わない。尾も無理だ。噛みつきしかない。ガバリと口を開け、迎え撃つ。


 赤髪の戦士は一回転をし、聖龍の鼻を打ち、頭に乗る。聖龍は頭を逆さにして落そうとするが、刀を突き刺し、留まってくる。


 魔術を当てられ、身をくねらせる。頭の位置が正常に戻ると、刀を突き刺したまま赤髪が走り出す。


『オオオオオオオオオオッッ‼』


 痛みに絶叫を上げ、再び身をくねらせ始める。囲いを離れ、森の上を一周し、塔の方へと戻ってくる。赤髪は逆さになっても走りが止まらない。尾まで切ると、赤髪は自然に落下していき、ガサガサと木々の中に消えていく。赤髪の後を追い、淡い紫の少女と茶髪の男が森の中に入っていく。


 聖龍は血が噴き出す傷口から異物が入り込んでくる感じがして、気持ちが悪くなり身を捻る。7人のうちの誰かの仕業かと思い、口内にブレスを溜めるが、そこで思いとどまる。これはこいつらの仕業ではない。もっとこう、根本的な慣れ親しんだもののような気がする。


 聖龍は空に向けてブレスを吐き、今まで空を覆っていた厚い雲を掻き分け青空を露出させる。穏やかな青い目でアレン達を睥睨し、明後日の方に飛び去って行った。








「満足そうな顔をしていたな。死に場所でも見つけにでも行ったのかな」


 光の幹部であるヴェスタは椅子に凭れながら溜め息を吐いた。仲間を失った。戦いの中に身を置いているのだから死んでしまうのは仕方ない。しかし、失うのはいつも哀しみを生む。


 ヴェスタは大剣を摑む。


 自分は英雄だ。正義の味方でもある。悪を打ち砕くことこそが僕の役目だ。今回の悪は強い。だからこそ、自分たちの前に現れる。僕の隣に立つ人物はこの戦いについてこれない。僕はいつも一人だ。何て可哀想なんだ。僕は悲劇のヒーローさ。


 ヴェスタは階下に降りていく。まるでこれから起きる戦闘を待ちきれないという風に、軽やかな足取りで。第三者が見ればきっと自分に酔っていると判断しただろう。

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