5.二度と通りたくない崖路
崖を歩いたことがない。
そのことが不安の原因の一つなのだろう。そしてアレンとエンドローゼは高いところが苦手だ。
アレンは樵の家系だ。常に周りには木があり、遊びの対象だった。木を的にして物を当てたり、登って遊んだりしていた。アレンは木から落ちて頭から血を流して気絶して以来、高いところが苦手になった。
エンドローゼは育った孤児院で、院長に高いところから落とされたことがある。何度も。何度も。何度もだ。教育だと言って落とされた。エンドローゼは高いところが苦手というわけではない。高いところに立つと、昔落とされた記憶がトラウマのように蘇ってしまう。
人一人通るのがやっとな道を前に止まっていた。からりと落ちた石の地面への着弾音が聞こえてこない。恐怖を助長していた。
「オイ。音が聞こえてこないぞ。落ちたら確実に死ぬぞ」
コストイラが覗き込んでいた姿勢から立ち上がりながら、そんなことを告げる。そんなこと誰もが分かっているが、何も言い返せない。ごくりと誰かの唾の呑み込む音が聞こえた。もしかしたら自分のかもしれない。何の憂いもなさそうにコストイラが歩き出す。何が出てくるのか分からないのでコストイラの後ろにはアストロ、アシド、エンドローゼ、レイド、アレン、シキと続く。前3人にはその歩みに迷いがない。エンドローゼがビクビクと牛歩するので、たびたび止まり振り返ってくる。
「危ない」
レイドがエンドローゼを摑み止める。アシドも止まり振り返る。両者間には1メートルほどの間が空いてしまっていた。その間にキラーシャークが割り込んできていた。キラーシャークは崖の岩肌、エンドローゼの目の前の壁面に噛みついてきた。鰭のような翼を動かし口を離し、崖から距離を取る。アストロは魔力を放ち、左目を潰す。
『ジャアアアアアアアッッ!』
牙を剥き出しにして叫び、残る右目でアストロを睨む。狭い道と崖という立地が原因でコストイラ達は手が出せない。弓を引く幅もない。この場で攻撃できるものはアストロかエンドローゼくらいなものだろう。キラーシャークはアストロに噛みつこうとして口を大きく開ける。口の中に炎が入り込み、その身内臓を焼いていく。キラーシャークは悶えながら下へ落ちていく。
「今のうちに」
アレンの号令により、急ぎつつ、丁寧に崖路を通っていった。