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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
6.紅い館
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9.チラスレアの戦い

 パラパラと上から欠片が降ってくる。


「あ………う………」


「えん?何かしら?お姉様が何かしているのかしら?何か楽しそう」


 青紫色のドレスを真っ赤に染めた少女は目の前にいる男のような何かへの興味が失せていた。辛うじて息をしていることすら気に留めない。


 少女は手にしていた針を動かし始める。目の前のものの腕を縫いながら鼻歌を奏でる。男のような何かはビクビクと震えているが、逃げることが出来ない。足の腱が切れていおり、動かすことも出来ない。


「う~ん。玩具を直すのって難しいなぁ」


 次の玩具に思いを馳せながら、縫合を続ける。








 ビリッとスカートを破る。動きやすいように改造するチラスレアはギアを一段階上げようとする。チラスレアは妹に隠れがちだが、本人も戦いが好きだ。久方振りに味わう高揚感に心が躍る。しかし、足元の黒い霧が引っ掛かる。これは何だろうか?


 足元に気を取られたせいでアシドの攻撃に反応が遅れる。槍が頬を掠め耳を薄く斬られるが、チラスレアの余裕の表情は崩れない。アシドの腹を蹴り飛ばすと腹に衝撃が走った。レイドの拳だ。床を2バウンドして棚に突っ込む。アシドもチラスレアも先程食べたものを吐き出してしまう。


 追い打ちをかけるようにアストロが魔術を放つ。煙がチラスレアを包み込む。紅赤色の少女は煙を突き破り登場する。突き出された手はアストロの顔面を鷲摑みにし、その顔面に優しく膝を叩きこむ。


「ぐぅぁ!」


 アストロは鼻血を吹きながら倒れる。


 チラスレアの足がつく前に右肩に槍が突き出される。チラスレアは穂先を摑み止めようとするが、勢いそのままに壁に縫い留められる。チラスレアが槍を引き剥がそうとするが、刀の刺突が左肩を襲う。左肩から血を出しながら顔を歪めるチラスレアはコストイラとアシドを蹴り飛ばし抵抗する。右手に摑んでいた槍を離し、左肩の刀を抜く。


「サラじゃ勝てないわけね」


 チラスレアは口の中に溜まった血を吐く。


「とはいえ、勝てないわけじゃない」


 その口を拭う。


 チラスレアはこの部屋では槍が使えないので捨てる。その顔の余裕は崩れていない。右も左も腕が痺れているし、血が流れている。手の開閉を繰り返し状態を確かめる。


 その隙を狙いコストイラが仕掛けるが、その前にシキが先陣を切る。ナイフがチラスレアの左の足を斬りつけ、動きを止めさせる。コストイラは先陣を務められなかったことを悲しみながら刀を振るう。チラスレアはギリギリで躱していくが、細かい傷を創っていく。止まらない二つの剣戟に嫌気がさし、アイアンクローで両者の頭を摑み床に叩きつける。他の相手の動向を見るために顔を上げるが、目の前は真っ暗だった。レイドの拳であった。


 鼻が折れ、牙に罅が入り、一瞬白眼を剥く。吐血しようとする口を無理矢理噛み締め、眼をレイドに向け血を吹き目潰しをする。普段は数の差などものともしないチラスレアだが、今回ばかりは違った。イメージとしては相手は少数精鋭のエリート軍。一つ一つが危ない攻撃だった。しかし、チラスレアの戦いの目的は勝つことではない。


 息を切らして汗を垂らす彼らを見て確信した。目的は達成した可能性が高い。そう思った瞬間、床が爆発した。








 青紫色のドレスを真っ赤に染めた少女は顔をムッとさせていた。


 ドンドンと音を鳴らす上階の状況を誰も説明しに来ないのだ。不貞腐れてしまっている。


「お姉様なんか嫌い」


 ぬいぐるみに抱きつきながらベッドに身を沈める。説明に来てくれないリックなんか嫌い。お食事の時間なのに運んできてくれないサナエラなんか嫌い。こんなに私が不安になっているのに慰めに来てくれないお姉様なんか嫌い。


 ぬいぐるみを抱く力が強まる。


 そこでふと別の考えが浮かんだ。もしかしたら、皆来ないのではなく来れないのではないのだろうか。もしかしたら今、誰かがこのお家を襲ってきていて手間取っているのではないだろうか?そう考えたらぬいぐるみを抱く力が少し強まる。


 もしそんなところを私が救ったら?リックやサナエラだけじゃなくてお姉様も私に感謝するのでは?そうなれば私もお家の中だけじゃなくてお外にも出れるようになれるのでは?


 お姉様も嬉しい。私も嬉しい。リックもサナエラも嬉しい。力を入れ過ぎてぬいぐるみがポンと音を立てて破裂する。しかし、少女は頭に浮かんだ計画に気を取られていて気付かない。


 扉を開けて、階段を上る時間も惜しい。少女は思いっきり踏切天井を突き破る。館の破壊で怒られることなんて頭になかった。








 何が起こったのか分からなかった。


 少女がその美しい金髪を振り乱しながら顔を上げたかと思うと、床が爆発したのだ。近くにいたコストイラ、レイドそしてチラスレアが巻き込まれた。コストイラはうつ伏せから仰向けに体勢を変え大きく息を吸い込む。レイドは下から押し寄せた瓦礫に叩かれ後方に飛ばされる。チラスレアは立っていた床ごと壁に叩きつけられ、辛うじて保っていた意識を根こそぎ刈り取られる。


 煙の中から現れたのは青紫色のドレスを真っ赤に染めた、チラスレアにそっくりな少女だった。きょろきょろと見渡しやっぱり、と呟く。そしてその瞳に姉の姿を映す。


「あーーーーーっ!!お姉様ぁ――――――――――ッッ!!!」


 少女はチラスレアに走り寄り、泣きながら抱きつく。


「お姉様ぁ、死んじゃ嫌ぁ」


 泣きじゃくる少女を前に攻撃していたコストイラ達は気まずくなる。


「お姉様をこんなにしたのはお前らかぁっ!」


 滅茶苦茶に恨めしそうな目でアシド達を睨んでくる。


「ぜっっっったいに許さないっ!!」


 あなたが止めを刺したんですよ、とも言えず抵抗するしかない。繰り出される攻撃は槍を失っているアシドに直撃し、扉を壊し階段下に落ちていく。エンドローゼも階下に消えていく。レイドは楯を構え階段を塞ぐ。


 アレンとアストロは遠距離から隙を狙うが、アレンの弓は客室にあるためここにはない。手元にあるのは解体用のナイフだけだ。握る力が増していく。だからといってアレンにできることは少ない。ただ歯がゆい思いをするしかない。


 コストイラとシキは近距離で妹のタゲ取りをする。パワーは明らかにコストイラを超えているが、その分速度はコストイラ達には劣っていた。シキが足でかく乱し、コストイラが攻撃を加える。標的がコストイラに向いたらシキが攻撃する。頭に血が上る少女は血を流すほど血が引いていき冷静になっていく。少女はシキのナイフとコストイラの刀を同時に掴み取る。


「なっ!?」


「っ!?」


 そのまま壁に投げつける。少女は天井のその向こう、月に向かい雄叫びを上げる。


 応えるように月は見ていた。

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