妄想の帝国 その50 普通事態宣言
新型肺炎ウイルスの猛威が収まらないニホン国では、ついに第八回目の緊急事態宣言をせざるをえない状況に追い込まれた。国際大運動大会を何としてでも開催したい総理ほかはこの事態をなんとか取り繕おうと…
極東の島国、ニホン国。温帯地域にたいてい存在する四季に加え、雨が断続的に降り続ける梅雨という季節に入りかけていた。じめじめとした嫌な天気が続くこの季節はたいていのニホン人が陰鬱な気分になるが、今年はさらにうつうつとしていた。。
「エーわが国では、新型肺炎ウイルスの感染拡大防止のために、7度目の緊急事態宣言をー」
「総理、八度目です」
「八度目か。八は末広がりでおめでたいというから、今度こそ緊急事態宣言がおわるといいのだが、そうでないと国際大運動大会が開催できん」
「開催できないと、国際大運動大会の国際員会のバカハッハ会長らが、かなりまずいことになります。あの方々も生活かかってますし…」
「競技の放映権やらの利権に加え、開催希望国からのつけとどけ、さらに開催国での接待攻勢とくれば、そうそうやめられないだろう。是が非でも開催してくれ、呼んでくれというのは当然だが、今回はその、我が国からの付け届けの件で、罪に問われる可能性がでてきたるからな実は。委員会の本部があるフランスで、我が国のえせ華族だかが迂回賄賂をバカハッハ会長に送った件で起訴されている。フランス本国がウイルス対応に追われて捜査が中断しているからいいが、再開されたら、会長や委員が逮捕されかねない」
「それも開催できればうやむやにできるのではないかという話ですが。しかし、我が国の感染者数は増加の一方です。一時的に収まったかと思いきや、各国の変異株が入ってきてまた増えるというイタチごっこです」
「ううむ、ワクチンの接種もなあ。接種予約がうまくとれないだのでなかなか進まないし。、くう、IT音痴の老人が多いせいで、スマホからの予約が滞るし」
「総理、わが与党ジコウ党の重鎮の方々もスマホのメールすらロクにお使いになれないのですが。第一、ワクチンの予約システムが今年の2月31日生まれでも予約できてしまうというアリエナイポンコツですし、まあ中抜き大好きのダケナカにやらせたから、予算の中間搾取をやりすぎて中国やほかのアジア諸国のようにまともな報酬が払えなくて技術者が集まらず、ロクデモナイものになったんだともっぱらの噂ですが。そのうえ、接種できる医療技術者が不足してます」
「打てば打つほどボーナス出すというあの案はどうなんだ。週150回を一か月続ければ180万円、どうだ、美味しいだろう」
「確かに接種回数の多い医師に補助を出しまくるといえば、積極的に行う人間もでてくるでしょうが、“一人の医師がそんなにワクチン打ちまくって大丈夫か、疲れて打ち間違いとかないのか”“休日返上でワクチン打ったほうが儲かるなら、接種に専念して通常診療がおろそかにする診療所でもでてくるのでは”という批判もあります。別の意味で医療崩壊が起こりえます」
「薬剤師とか、いっそイギリスみたいに訓練受けさせた一般人でもできるようにすればよいのだが、医師会の連中がなあ」
「インフルエンザ予防接種の利権という噂ですが。確かに、ワクチン接種の門戸を開けばインフルエンザ予防接種も薬剤師が打てるようになる可能性がでてきますね。そうすると予防接種の補助金などを薬剤師ももらえ、医師に回る分が減る、それはいやだってことですか。しかし、この未曽有の危機にそんな縄張り争いは…。って厚労省と文科省などやってますけどね、はあ」
「まあ、その私が官房長官だった時もなあ、とにかく検査やりまくって感染者を見つけるべきという意見もあったのだが。検査設備がある大学や民間企業に協力を求めるのをオンミさんらが渋るし、厚労省も」
「ウイルス対策分科会の会長オンミさんですか。検査結果を自分とこの感染研が全部管理したいから大学や企業などに検査させたくないんでしょうね。しかし、あの人、新型肺炎ウイルスの対策については最初から間違ってましたけど。発熱4日後に受診すべきなんて、あれで結構死んだ人いるんですが、なんで、いまだに会長に」
「それはだな、あれ以外に私のいうことを聞いてくれそうな医師とかがいないのだ。誰もかれも小難しい理屈で人を止めようとして…。私だって感染者が増えればまずいことだってわかっているんだが」
「その、総理、学者の方々はパンデミックを止めようとして意見を言ってくれているのだと思いますが」
「だが、トラベルキャンペーンがダメとか国際大運動大会は中止とか、私も含め与党ジコウ党にとってよくないことばかりいうし。トラベルキャンペーンは確かに支援者の後押しだが、観光業や飲食業にだって利益があるのに」
「ずっとやるなというのではなく、時期がまずいということなのでは。キャンペーンで人の流れが活発になり感染がひろがったために、緊急事態宣言を何度かやる羽目になったのは事実ですし。国際大運動大会も同じで、このような状況で開催すれば世界的パンデミックを引き起こしかねない、その責任は我が国がかぶることになるということで」
「責任はあるといえばいいのではないか。今だって、それさえ言えば選挙のころには国民の大半が忘れてくれる」
「我が国のマスメディア、とくに黄泉瓜新聞やら三径新聞などならそれで追及はしないでしょうが、世界はそうはいきません。下手すると各国連合が我が国に償え、主権を奪えとなりかねないかと」
「そ、そんな怖いこと言うな!本当になったらどうする!だ、だが開催しないわけにもいかん。スポンサーの放映権、チケット代そのほかもろもろ」
「ダケナカ氏に流した金の追及を各国連合にされたら、まずいです。我が国の検察ならなんとかなりますが、インターポールなどに出てこられたら、閣僚の皆様、ジコウ党幹部どころか補佐官である私やモモタンやらの御用芸人、三径の似非記者アヒルなども」
「そ、そうだ、君らだって無事ではすまんのだ。私の政治生命だけではないんだぞ!だからこそこの事態をなんとか」
「う、そうおっしゃられても打つ手が…。そ、そうだ、日常事態宣言というのはどうでしょう?感染拡大防止のために自粛ではない、これこそが新しい日常なのだと」
「新しい日常?緊急事態ではなく、これが普通の状態だというのか」
「そうです。新型肺炎ウイルスは自然がおごり高ぶった人類をこらしめるためという説もあります。ならば自然にはどうせ勝てない、気を付けながら生活するのが当たり前になったのだと」
「そ、そうだな、これが当たり前の生活、それなら国際大運動大会を開いても文句はあるまい」
「そうです、普通の生活になったんですから」
「そうだ、長年続いた国際的行事をやって何が悪い、これが新しい普通なんだ!よし、それでいこう、普通事態宣言だ」
普通をわざわざ宣言すること自体異常だろ、国際大運動大会自体をやめる新しい普通だってあるだろ、というツッコミがくるということを完全に無視し、開催すればすべてよしという妄想に取りつかれた総理たちはいそいそと“普通事態宣言”の準備をはじめた。
どこぞの国では昨年から一年の半数以上をナンタラ宣言、自粛自粛と言ってますが、いつまで続くのでしょうか。先走ってナンタラキャンペーンに走り、利権のために危ないイベント開催をもくろむは、お仲間に金をまわすためにトンデモシステム作らせるは、本気で事態を収束する気があるんでしょうかねえ。トップたちが目先の利益に目がくらむのだけは、通常運転のようですが。