神の声を聴いた日
この世界は誰と誰の物語なんだろう。
アダムとイブの話なのか?いや、違う。
"本質"が違うのか。
俺ですら、俺の人生を生きていないことをこの日に知らされた。
『そこの道は通らない方がいい』
いつものように朝起きて、母さんが作ってくれた朝ご飯を食べながら、特に話をすることもなくテレビのニュースを見た。いつものように家を出て、学校に向かう道中にある”抜け道”に差し掛かった時にその声は聞こえた。
最初は気のせいだと思った。でも、やけにはっきり聞こえたその声に足を止め、周りを見渡した。でも、誰もいないので再び歩き始めようとしたその時ーーー
『ガッシャーーーーーーーン!!!』
”抜け道”の先で何かがぶつかるような大きな音がした。駆け足で”抜け道”を通り覗いてみると、抜け道の先で車が電信柱に突っ込んでいた。
一気に青ざめた。
「なんだよ・・」
『だから、言っただろう?』
バッとあたりを見渡すが、突然の事故で野次馬も多く、それが誰の声か分からなかった。とにかく怖くなった俺は小走りで学校へ向かった。
「今日すごい事故があったみたいだな」
友人の雄太が話しかけてきた。
「あぁ、ちょうど近くにいて九死に一生だったよ」
「まじで?まぁ、なんともなくて良かったじゃん!」
「それより、今日課題忘れてさー、見せてくんない?」
「ったく、ほらよ」
「さんきゅー!さすがわが友!」
いつもの朝、いつもと同じような会話、うん、なんともない。
・・と思っていたが、やっぱり違った。
「おはよう、鷲野くん」
「・・おはよう、福夢さん」
クラスのマドンナ的存在である福夢さんが俺に挨拶をしてきたからだ。
隣の雄太は目を見開いて固まっている。
・・周りの視線が痛い。
「話があるんだけど、放課後用事ある?たしか鷲野君って部活やってないよね?」
「え、あぁ・・今日はバイトもないから特になにもないけど・・」
「そっ!良かった~!じゃあ、放課後ね!」
パッと花が咲いたような笑顔で福夢さんは離れていった。・・いい香りがする。
「おおおおお、お前、福さんとどういう関係なんだよ!?」
小声とも言えないような声で雄太が問いただす。
「いや、ほとんどしゃべったことねーよ」
「え、じゃあなんでだよ!まさか、そんな・・福さんがコイツのこと・・」
ブツブツうるさい。
とはいえ、俺の心臓もバクバクしてるけど。
当然ながらこの日の授業は全て心ここにあらずという感じで一切覚えていなかった。
そして、放課後ーーーー
「鷲野君、ごめんね。呼び出して」
「いや、いいけど。なに?」
「私、近くの人と繋がったの初めてで。ほら、声聞こえたでしょ?」
朝のことを思い出す。
「え、あれは福夢さんの声だったの?!」
彼女は目をパチクリさせて「プッ」と笑いだした。
「あははははは、そんなわけないじゃん!あれは神様の声だよ」
「え、えええ?神様・・?」
「不思議?神様って言われて信じられない?」
「いや、そりゃあね・・。神様ってそもそも本当にいるかも分からないし」
「へぇ・・そういう風に思ってるんだ。じゃあ、いないってことも分からないよね?」
ぐぐ・・たしかに・・
「いる証明ができないからっていない証明にはならないよ。実際に人智を超えた存在なんだもの。人が呼ぶその奇跡で鷲野君の命は今日護られた」
「・・見てたの?じゃあやっぱり君じゃないか。あの声は」
「ふふ、見てないよ。聴いてたの。天使たちと神様の声で」
「じゃあ君も聞こえるんだね?その声が」
「聴こえるよ?この世界への悲しみと怒りの声が、毎日」
「?」
「ふふ、異世界へようこそ♪鷲野くん♪」
「い・・」
異世界!?!?!??!