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天体観測

作者: みくた

 真夜中の公園。その中にある街を一望できる丘の上で、ナユタは幼馴染のモトコと望遠鏡を設置しスマホアプリから流れる深夜ラジオを聞きながら天体観測をしていた。

「今日は空気が澄んでるからよく見えるな。」

 望遠鏡を覗いていたナユタが白い息を吐きながら言う。

「でも、今日は冷えるね。この番組が終わったらコンビニ行こうか。」

 モトコはグレーのダッフルコートを着込んだ小さな身体を震わせた。

「そうだな。」

 望遠鏡をモトコに譲ったナユタは、ダウンジャケットのポケットからすっかり冷めた缶コーヒーを取り出し封を切った。

 二人は子供の頃から定期的にこうして天体観測を行っている。

「そういえばさ。ここで天体観測を始めてから今日で七年目だよね。」

「そうだっけ?」

 望遠鏡を覗きながらそう話すモトコに対し、缶に口を付けたままナユタは視線を向ける。

「うん、そう。」

 モトコもナユタを見つめる。

「お前、意外とそういうとこ豆だよな。」

「まあね。・・・と言う訳で今日は特別な事があってもいいんじゃない?」

 モトコがニヤリと笑う。

「愛の告白でもして欲しいのか?」

「もう!雰囲気がないなぁ。」

「俺からすればこういうやり取りも雰囲気の内なんだよ。」

 むくれるモトコに、やれやれといった様子のナユタが答える。

「じゃあ、とびきり甘い言葉で告白してくれる?」

「甘いかどうかはわからないけど、一度しか言わないからよく聞いとけよ・・・」

 そう宣言し、ナユタはモトコの両肩を掴むと真っ直ぐにその瞳を見据えた。

「正式に俺と付き合ってくれ。」

 はっきりとそう言い放つ。

「ありがとう。・・・でも、その前にナユタには知っておいて欲しいことがある。」

 その瞬間、モトコの首から上が変質を始めた。

 ショートカットの黒髪は長く伸びながら明るい青緑色になり、それと同時に肌の色も白味が増して質感が変わる。

「な・・・え・・・?」

 突然の事に言葉を失うナユタ。

「これが本当の私。実は宇宙人なんだ。」

 モトコは少し申し訳なさそうに笑った。

「・・・マジ?」

「うん、マジ。騙すつもりはなかったんだけど、正体を明かすにはもうこのタイミングしかないと思って・・・。さっきの告白、やっぱ無しにする?」

「・・・いや、取り消さないよ。」

 混乱からどうにか復帰したナユタが声を絞り出す。

「大丈夫?無理してない?」

 モトコはナユタの顔を下から青緑色の瞳で覗き込む。

「無理はしてない。・・・まあ、毎日のように顔を合わせてたやつが殆ど別人だった事には驚いたけど、これはこれで魅力的だ。」

「ホント?」

 モトコの顔がぱっと明るくなる。

「ああ。でも、今まで一緒にいたお前は、外見以外はありのままなんだよな?」

「勿論。私は自分を偽れるほど器用じゃない。」

 真顔で聞くナユタにモトコは口元に笑みを浮かべて答える。

「なら安心だ。・・・これからもよろしく頼む。」

「こちらこそ。」

 そして、二人は熱い口づけを交わした。


「ところで、聞きたいことが山ほどあるんだけどさ。」

 キスの後、姿を戻し天体観測を再開したモトコに、冷たくなったコーヒーを飲み干したナユタが声を掛ける。

「んー?」

「まず、どこの星からなんの為に地球に来たの?」

「大体この方向の地球じゃどう頑張っても見えない星から、親の仕事の都合で来た。」

 モトコは望遠鏡を覗きながら右手で空を指し示し淡々と語る。

「仕事って?」

「貿易関係らしいけど詳しくは知らない。案外地球人を他の星に輸出してたりして。」

 そう言い終わるとモトコは歯を見せてシシシと笑った。

「そりゃ笑えないな・・・。故郷の星はどんなとこ?」

「さあ?物心ついたときには地球にいたから・・・まあ、聴いた話だとこことあまり変わらないらしいよ。・・・ていうか、質問多くない?」

 モトコが望遠鏡から顔を上げ、少し不満げにナユタを見つめる。

「そりゃそうだ。国籍が違うとかいうレベルの話じゃないからな。まだ聞きたいことがいっぱいある。」

「わかったわかった。・・・それで、次は何について聞きたい?」

「じゃあ・・・」

 そして、ナユタは夜が開ける直前までモトコを質問攻めにし、地球人と宇宙人による奇妙な交際が始まるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冬の澄んだ星空をバックにした告白、実にロマンチックですね。 その告白内容から、「ウルトラセブン」の最終回を思い出しました。 ウルトラセブンにおいては告白が別離のキッカケになりましたが、こち…
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