妹は3回目の人生を歩んでいるらしい
ジュネの兄・コールマン視点。
何故か夏月が書くと男兄弟の多くはシスコン化するのですが……
何故だ……。
コールマンも安定のシスコン化してます。今までのコールマンが好きな方は読まない事をお勧めします。
ジュネ。
俺の可愛い妹。この世で唯一人の俺の家族。母は亡くなり父という存在はただ其処に居るだけの人間にしか思えない。だからジュネーヴェラだけが俺の家族で俺が愛情をかけても許される存在で俺に愛情を注いでくれる存在。俺には婚約者が居た。彼女との交流は互いを尊重し合うものだったし家庭を築いたら仲良くなれただろう。実母が死ぬまではそう思っていた。
実母が亡くなりその対応に追われていた間に父が勝手に婚約を解消していた。母の葬儀に婚約者が来てくれて挨拶を交わした事が彼女を見た最後だった。母の件が一段落して彼女に連絡を取ったら向こうから婚約は解消されているでしょう……という連絡をもらった。何を言っているのか分からなかったが父親が関係していると知って問い詰めればアッサリと婚約解消の件を認めた。伯爵家の向こうではこちらの言う事に逆らえなかっただろう。頭では理解していても何故受け入れたのだ、と彼女に憤った。
慌てて彼女を訪ねて婚約を戻したいと話せば既に新しい婚約者がいた。それも俺と婚約している時から密かに付き合っていた相手らしい。それは不貞と言わないか、と思いもしたがそれを詰る程俺は彼女を愛しているわけじゃない、と気がついた。もうどうでもいいと思えてそれ以上は何も言わなかった。この件はジュネにも話していない。こんな情けない事を言えるわけがなくていつだって頼りになる優しい兄でいたかったから。
そんな中で父が愛人とその娘を連れて来ると言い出した。まだ母が亡くなって日も浅いというのに本当に自分の事しか考えていない男だった。同時に俺を領地へ向かわせると言い出したのはおそらく俺が口煩いからだろう。ジュネだけならどうとでもなると思っているのが手に取るように分かる。出来ればジュネも領地へ連れて行きたかったがまだ学院へ行っていないから無理だ。あの学院は全ての貴族家の令息・令嬢が通う事になっている。何事も無ければ良いのだが……と思っていた矢先ジュネが俺を呼んでいると使用人から聞かされ午後からは第二王子殿下と約束があるから直ぐに会う事にした。帰宅してから? 可愛いジュネのためなら今すぐだろう。そう思ってのこと。そこで俺は驚愕の事態に見舞われる。
「手紙?」
ジュネが何も言わずに随分と古めかしい手紙を差し出してきた。読むのか? と確認すれば是非読んで欲しいという事だから目を通した途端に愕然とした。
この手紙は俺の筆跡じゃないか!
だが俺は更に驚く。こんな事を書いた記憶が無い。それどころかこれは一体なんなんだ、と。ジュネが婚約破棄され修道院行き? どういう事だろう。酔った勢いで書いたのかとも思ったがそもそも記憶が無くなる程酒を過ごした記憶が無い。つまり全く身に覚えの無い自分の筆跡の手紙だった。
全ての手紙を読み終わりジュネの秘密を聞かされて少しだけジュネの頭を疑ってしまったが、ジュネはこのような嘘や冗談を言うような娘でもない事は産まれた時からの付き合いで知っていた。それに自筆の手紙がここにある。こんなはっきりとした物証を信じない程俺の頭は固くない。
そうして俺は知った。
ーージュネが3回目のジュネーヴェラの人生を歩んでいることを。
1回目も2回目もあの愚かな父親とその再婚相手と異母妹にジュネの婚約者であるはずの屑な男に口に出すのも不愉快な目に遭わされた事を知った俺は、あまりにも怒りで目が眩み全員をこの手で殺したくなる程だった。
しかもおとなしく修道院に入っていたジュネを1回目は毒殺し2回目は冤罪を被せておいて出て来たジュネを逆恨みして惨たらしく殺した……と聞かされれば胸が掻き毟られる程悔しくて仕方なかった。
人を殺したい。
呪ってやりたい。
不幸の底に叩き込んでそこから這い上がれなくしてやりたい。
過去これほど人を憎いと思った事は無かった。しかしそんな俺の気持ちとは裏腹にジュネは目を輝かせて婚約破棄ではなく解消を求め異母妹と婚約者を婚約させて自分は俺と一緒に居たい、と言った。その望みを聞いた俺は受け入れるのと同時にどす黒く染まった殺意と憎悪を心の奥底に封じ込んで笑った。
ーージュネを幸せにするためならばきっと俺は何でもする。
この時俺はそう思った。俺はジュネに学院で首席入学を果たしてずっと試験で首席を取れば1年早く卒業した時には陛下から褒美がもらえる、と。同時に第二王子殿下にジュネの事を話して協力を仰いだ。それからのジュネは領地に行っている間の事だから手紙で知らされていたが死に物狂いで頑張っていたようだ。少しでも油断すればすぐに首席から落ちる程難しい学院で首席入学を果たした後も1年早く卒業するまで一度も陥落した事は無かったらしい。
秘密ですよ。と笑いながら最初の人生も2回目の人生も常に10位以内の成績だったけれど3回目は最初から首席を取るために2回の人生の学院生活を覚えている限り思い出して試験の問題傾向を把握して勉強したそうだ。成る程。全く同じ問題の試験もあれば似ているけれど違う問題もあったようだが2回も試験をやっていれば簡単だと。
しかしそんな甘いものじゃない事は長期休みに領地へ来るか俺が王都の屋敷へ行くかしている時も勉強を欠かさない時点で理解している。そんなジュネの健気さと愛らしさに絶対死なせるものか、と改めて誓った。そして婚約を解消した暁にはあんな屑より良い男を紹介しようと思っている。実はもう目星はついている。
第二王子・エリンヒルド殿下の側近で俺の同僚であるザザラス。エリンヒルド殿下とはかなり長い付き合いで俺も信頼している。ジュネが婚約解消を陛下に申し出て褒美として許可さえ出ればザザラスを紹介しようと決めていた。エリンヒルド殿下にダンスを踊ってもらう事も取り付けた。屑の婚約者と異母妹と父と義母にとっては悔しい事だろう。それに殿下の婚約者と思われてはマズイのでザザラスとも踊ってもらえるように頼んだ。これがうまくきっかけになってくれれば助かるが。
そうして夜会当日。
見事に俺は憂さ晴らしが出来た。
ああ父も義母も異母妹も屑の婚約者も俺とジュネを見て驚いた後に義母と異母妹は悔しがった。父は単純に驚いたままだが屑の婚約者がジュネに見惚れていた。
やっとジュネが美しいことに気付いたか。だが残念だったな。お前自らジュネを手離したんだ。近寄ってくるなよ。それなのに屑婚約者はジュネに婚約解消の理由を教えて欲しいなどと言い出した。誰がお前などにジュネと話をさせるか! とジュネの腰を引き寄せて顔を隠すがとうのジュネが身を捩って俺に囁く。
「お兄様。婚約解消の理由くらい話してあげますわ。だってあの方はようやく愛しい女性と婚約できたのですから。そうしたら私に感謝してくれると思いません?」
ジュネは1回目も2回目も屑から感謝されたことが無かったからせめてこれくらいでも良いから感謝されたかったのだ、と後から説明された。感謝をされれば1回目の人生と2回目の人生のジュネの恋心が報われるのではないかということなのかもしれない。
さてジュネに婚約解消の理由を告げられた屑は異母妹と婚約できた事をジュネに感謝する事もなくそそくさといなくなった。ジュネも感謝して欲しいと言いつつも何も期待してないらしかった。やっぱりね、と肩を竦ませてそれ以降は屑を見向きもしない。だが俺は気付いていた。屑の婚約者がジュネをチラチラと見ていた事を。異母妹に気付かれなければいいな。それから血の繋がりだけはある父が寄ってきて俺とジュネを懐柔しようとして来たが俺は現実を突き付けてやる。
「父上。あなたに育てられた事は全く有りませんが金を稼いでくれていただけマシだと思って通告しておきます。近いうちに俺がファラン侯爵家を継いだらあなた方は領地に引っ込んでもらいます。王都には出てこないで下さいね」
「なっ……。実の父に向かって」
「ですから恩情をかけているじゃないですか。俺達の母にした事と俺とジュネにした事をこんなところで暴露してもらいたいというなら構いませんが?」
こんなところ……王家主催の夜会に侯爵家の醜聞。義母と異母妹を愛している父がそんな愚かな選択をするとは思えない。案の定周囲の視線が気になったのか黙り込んだ父にトドメの一言を放った。
「俺達に近づいて上手い汁を吸おうとしても無駄です。親子の縁は切らせてもらいますからね」
父も引き下がらせた俺はようやくジュネを守れた実感が沸いた。後はジュネをザザラスに任せられれば良いのだが。この時の俺は未だ知らなかった。……ザザラスよりもエリンヒルド殿下がジュネに夢中になるなど。
夜会から数日。相変わらず城内の俺用の一室で俺とジュネは住んでいる。続き部屋になっていて入った部屋は共有場所だ。ソファーやテーブルがある。その部屋の右側にジュネで左側が俺の寝室と分けているのだが俺がジュネより後に仕事が終わった夜のこと。
「お兄様」
普段ならとっくに寝んでいるはずのジュネが自分の寝室から出て来た。ジュネ……いくら兄とはいえ男の前でそんな無防備な姿を晒すものじゃないよ、と注意するべきかと思いながら真剣な表情をみつめる。
「どうした?」
「エリンヒルド殿下の事なのですが」
あー……それね。何を言いたいのか俺は直ぐに理解した。俺の立てた計画がまさか狂うなんて思ってもみなかった。あの夜会から俺は自分の浅はかさに溜め息をついている。エリンヒルド殿下は何故かジュネをお気に召して冗談半分で口説き始めた。ーー心底やめて欲しい。俺達兄妹はあなたの欲のために生きているわけではないので。
俺は知っていた。
自分がエリンヒルド殿下に好意をもたれていた事を。
何しろ寝室に引き摺り込まれかけた事が一度だけある。すんでのところで恐れ多くも殿下を蹴飛ばして逃げ出した。殿下が男でも女でも欲の対象として見られるらしいし恋人にも出来るらしいと知っていたので……つまり俺は自分がその対象なのだ、と理解した。生憎殿下に恋愛感情は全く持っていないため対象にされても拒否するだけだが、俺が相手をしないからと言ってジュネに手を出そうとするのはやめて欲しい。
「私はエリンヒルド殿下に好きだと言われてますが」
「うん」
「お断りしてもしてもしてもしつこいのですがどうしたらよろしいでしょう?」
あー。ジュネ、相当怒ってるね。
「殿下の事をジュネはどう思ってる?」
「えっ? 嫌です」
「随分とハッキリ言うね……」
「いけませんか?」
「いや。……ジュネに相手が居れば殿下も引き下がると思うけれどジュネに相手が居ないからなぁ」
俺が困ったように笑えばジュネも困ったように笑った。
「私は当分誰とも婚約はしませんし恋人もいりません。お兄様の側でお兄様と共に生きて行きたいのです。私にはお兄様以外家族がいませんもの。だから暫く家族の愛情を深めたいですわ」
どうしよう。
妹が可愛すぎる。
こんな可愛い事を言われたらジュネを掻っ攫おうとする男は絶対一発殴る。
そして幸せにしなければ許さない。
泣かせたらボコボコにしてやるからな、とか言いながら号泣して嫁に出す自信がある。
あ。妄想だけで泣けてきた。
「……お兄様?」
泣いている俺にジュネが戸惑ってる。ごめん、こんな情けない兄で。涙を拭って俺はジュネに宣言した。
「ジュネ。あまりにもしつこいようならザザラスに任せろ。ザザラスならば殿下を止められる」
「分かりましたわ。そう致します」
ニコッと笑うジュネが可愛くてその笑顔を見られただけで今夜はよく眠れそうだ、と思う。互いに挨拶をしてそれぞれの寝室に入った。……それからおよそ半年。
俺は殿下が本気でジュネを落とそうとしている事に唖然としていた。まさかの殿下がジュネに本気……。
「コールマン」
「はい」
「ジュネは」
「愛称はジュネが納得していないのでは?」
「ジュネーヴェラは何が好きだ? 食べ物・花・髪飾り・宝飾品・ドレスなんだって構わないから教えてくれ」
真面目な表情で何を悩んでいるのかと思えばコレだ。仕事をしていなければ問答無用で仕事をさせていたが仕事はきちんとやっているから文句も言えない。
「ジュネは俺が好きです」
なので悔し紛れにそう言ってやった。途端に顔を歪める殿下を見て気持ちがスッとする。殿下もジュネが俺の事を好きなのを身に染みて理解しているようだ。大体殿下はジュネを真剣に口説いているようだがジュネはバッサリとぶった切っているらしい。殿下の振られっぷりはザザラスも困惑しているらしい。何しろ俺にジュネを殿下の婚約者に出来ないか? と言ってくるくらいだから。まさか自国の王子から告白されて断る令嬢なんて居るとは思っていなかった……とザザラスがボヤいていたのはつい最近の事だった。
そんな事を回想していたら殿下の執務室がノックされる。同時に「ジュネーヴェラ入ります」とジュネの声が聞こえてきたので俺が迎えに行くとジュネは両腕で書類を抱えている。それも落ちそうだ。……ノックは誰が? と思ったが殿下の護衛が扉の前に立っているから護衛が叩いたのだろう。
「半分持つよ」
「いえ大丈夫よ、お兄様。お兄様とザザラス様の執務机に置くだけですから」
優秀な成績で卒業したジュネは当然俺の右腕としてもその優秀さを見せつけている。書類を言った通りに置いたと思えば直ぐに順序を変える。おそらく急ぎのものと数日余裕があるものの仕分けだろう。これだけでも随分違うがその仕分け中にジュネが概要をチェックする。それに合わせて必要な資料を後で王城の隣にある図書館から持って来てくれる。本当に良く出来た妹だ。
「お兄様終わりましたわ。ザザラス様もこちらに」
「「ありがとう」」
ザザラスもジュネの優秀さを認めていて普段表情の変わらない男が頬を緩ませるのを度々見ている。とはいえザザラスが妹をどう思っているのか俺はまだ聞いた事がない。和やかな空気が流れたところで、やたらと咳払いをした殿下がジュネを見る。
「ジュネーヴェラ。その、お前の働きに報いたいので何か欲しいものがあれば言って欲しいのだが」
……エリンヒルド殿下には男女問わず恋人が何人もいたというのにジュネに声をかけているこの純情さは一体誰だ? と問いたい。
「でしたらお兄様とのデート権を下さいませ。久しぶりにお兄様に甘えたいですわ」
さすがに顔を真っ赤にするくらい純情ではないが耳は赤い殿下とは正反対にジュネはまじめに俺とのデート権を主張してくる。可愛い。妹とのデートならいくらでも時間を捻出する。
「なんだそれは。俺とのデート権じゃないのか」
「何故殿下とデートする必要が? 余計な醜聞は御免ですわ」
……うん、ジュネよ。にべもなくぶった切ったね。殿下が煤けた顔をしてるよ。
「お、俺の事がそんなに嫌か?」
「はい」
うわぁ。コレか。ザザラスが言っていたやつは。ザザラスをチラリと見ればいつもなのだろう何も言わない。殿下はそれ以上何も言わなくなりジュネも仕事に熱中する。無言の執務室だが俺は殿下から刺されるんじゃないかと思う程痛い視線を浴びせられていた。
「殿下。今夜にでもジュネに殿下への気持ちを確認だけしておきます。脈がまるでなかったら諦めて下さいね」
溜め息をつきながら殿下に言えば「諦められるか分からないがとりあえず気持ちは知りたい」とか本当に誰だよコレ? 的な発言をしていた。その夜。ジュネと就寝前のお茶をしつつ切り出した。
「ジュネは殿下の事をまだ何とも思っていないのか?」
「……お兄様は気付いておられますの?」
質問に質問を返されつつジュネの言いたい事が分からずに首を捻った。
「殿下はお兄様を恋人にしたい、そうですわ。私は殿下の恋に口を挟む気はありませんが、お兄様を恋人にするために私を口説くなんて言語道断ですわ。お兄様には優しく賢く芯の強い女性をお迎えするつもりですもの。……あの婚約者の方も随分とお兄様をバカになさって本当に許せません」
ジュネは殿下の俺に対する気持ちも俺の元婚約者に対する感情も全て曝け出していて可愛い。というか俺の元婚約者の不貞の件をジュネは知っていたのか? それにしても殿下については、今は本気でジュネを愛している事には気付いていないんだな。まぁ殿下の気持ちを気付かせるつもりはないけどな。俺の元婚約者に対しては俺はもう何とも思っていないから大丈夫だ。そんな事を思いながら何となく俺はザザラスについても尋ねてみた。
「じゃあザザラスについては?」
その瞬間のジュネの表情は頬を赤く染めて目が輝いていた。これはもしや。
「ザザラス様は……尊敬しますわ。それに普段は無口ですがお優しいですし叱ってもフォローを入れてくださいますし。良い方だと思いますわ」
ジュネ……。そうか。俺は寂しいけどザザラスならお前を譲れるよ。一度殴るけどな。そんなわけで次の日俺にジュネの気持ちを殿下は確認してきたので
「ジュネは相変わらず何とも思ってないみたいですね」
とにこやかに言えば殿下はまたわかりやすく落ち込んだ。そんな殿下をさておいて俺はザザラスを連れて執務室の外に出た。
「なんだ?」
ザザラスに短く問われて俺は尋ねた。
「ザザラスは殿下の気持ちは置いといてジュネが殿下の婚約者になる事は賛成か?」
「殿下が結婚を望んでくれるのだから当然だろう」
だから、殿下の気持ちは置いといてって言っただろうが。溜め息をついて俺はもう一度問う。
「そうじゃない。殿下の気持ちは関係なくザザラスも殿下の乳兄弟や側近であることは置いといて、ジュネが殿下の婚約者になる事はどう思うか聞いている」
俺の懇切丁寧な問いかけにザザラスが珍しく動揺して目を瞬かせつつ考える。そうだ。お前は少し自分の気持ちを考えてくれ。ジュネに脈があるなら……悔しいが非常に悔しいがお前にジュネをやるから! ジュネはお前が好きみたいだぞ!
「ジュネーヴェラ殿は……聡明で。殿下にもきちんと考えを伝えられる強い女性で。見た目は華やかではないが、その可愛らしい……と思う。殿下の気持ちを置いといてならば、殿下との婚約は悪くないがぜひ、と勧められるものでもない。殿下の気持ちを考えないならジュネーヴェラ殿の気持ちを優先するわけでそれを踏まえるとジュネーヴェラ殿が想う相手と結婚して欲しい。ジュネーヴェラ殿の前の婚約者の件を知っているから余計に幸せになってもらいたい、と思う」
おおっ! ジュネ! ザザラスもお前に好意的だぞ!
「ほう。ジュネに幸せに、なぁ。ちなみにザザラスはどうだ?」
「私はダメだ。私ではジュネーヴェラ殿を幸せにしてやれない」
「それは何故だ?」
殿下がジュネに惚れているからか? ザザラスは苦しいものを背負っているかのように口を開閉してから言いたくなかっただろう事を教えてくれた。
「私と殿下は乳兄弟でありお互いに恋愛感情は無い。……が、一度だけ酒を飲み過ごした殿下と殿下より酒が弱い私は殿下の閨で一夜を共にしている。殿下も私も更に若かった。翌朝殿下に謝られたし私も無かった事に決めたが。こんな私にジュネーヴェラ殿を幸せにする資格は無い」
……それ、は。
「俺に話したくない事を話してくれてありがとう。悪かったな」
「いや」
「ではジュネはともかく……だから婚約者は作らないのか?」
「……ああ。その。結婚すれば閨を共にするだろう? 自分が経験したから思うが男にあのように身体を触られる女性はどうなのだろう、と思ってな」
……ザザラス。分かっているのか? 俺は敢えてどっちが女性側なのか尋ねなかったのを暴露しているんだぞ?
俺は知りたくなかった情報に一瞬視線を飛ばしてから淡々と言ってみた。
「それは愛する者同士なら分かるんじゃないか? まぁザザラスの気持ちは分かった。ジュネの事を大切に思ってくれているんだな?」
「それはまぁ」
「それは良かった。じゃあジュネが婚約を断っている事も味方してくれるよな?」
ザザラスはしまった……という表情を見せて本当に今日はザザラスの普段見られない顔が見られて嬉しかった。意気揚々としたその夜ジュネにザザラスの話をするよりも前にジュネから次の休みについて予定を聞かれた。
「俺とデートしたいの?」
「もちろんですわ!」
可愛い。やっぱりジュネにザザラスの気持ちを話すのは後にしよう。もう少し兄妹だけの日々を過ごしたい。そう思っていた俺は知らなかった。ジュネとのデート中に偶然にもジュネの友人で身分は子爵家であまり裕福ではない令嬢と出会い、3人でお茶を楽しむ事になるとは。そしてうっかり俺がその女性に惚れてしまいジュネに「上手くいったわ!」と喜ばれてようやくあの偶然は偶然じゃなかった事を後から知った。で。幼い弟妹の面倒を見ていて歳の離れた男の後妻になりかける所だった彼女を口説き落として彼女の両親に援助を申し出る代わりに彼女を俺の妻に迎え入れる事を許してもらい婚約者にしたのは、出会ってから3ヶ月後の事だった。
ちなみにその間にジュネと殿下とザザラスはどうなったのかと言えば……取り敢えずジュネが未だに誰とも婚約していない事から察してもらえるだろう。
そんなわけでコールマンに婚約者が出来ました。←えっ
ジュネとエリンヒルドとザザラスは?
と思われるかもしれませんが……すみません。分かりません。でもまぁねぇ……ジュネはホラザザラスが気になるようなので。多分?