第十二章 火は、消えることなく 3
「確かに白井さんが関わってくださって以降、これ以上青山さんが叩かれないように、と尽力されたことについては一定の理解をしています。ご質問のなすびさんの件ですが、あえてどうこうしようという気持ちはありません。なぜか。簡単に言うと、意味がない。もちろん炎上については彼女に責任がありましょう。しかしあのようなことを軽率に起こしてしまう相手に『それは法的に違反なんだよ』と時間と費用と精神力をすり減らして訴訟を起こしても、それが青山さんの人生再構築にどれほどの意味があるでしょう。一方、ハルモニアさんとの問題解決について。労使関係から考えた際、会社における法的責任を果たしていただいたのか。この責任の在りかを正しく追及していくことには、社員、労働者として意味がある。ウェディングプランナーとしての将来……があるかどうか分かりませんが、生き方、生きていく道を再構築するにあたり、裁判は避けられない、ということです」
一息。しかしハルモニア側が言葉を発しないため、祐子は続ける。
「訴状の中身に触れるつもりはありませんが、ではどうしろというのか、とはお思いでしょう。そこで昨日から協議の接点はどこかと考えておりました。なすびさんが炎上させた、というのはその通り。しかし、なぜなすびさんはあのような発信をし続けたのか。果たして、早い時期に正確な事実の公表があれば、あの炎上は起こったのか、会社として止める手立てはなかったのか。先ほどからそちらは『なすびさんがやったことに関してハルモニアには責任がない。ないけれども好意で青山さんのケアをしている』と言う。この『責任がある、ない』についての互いの理解、見解が接点になるのでしょう。やるべき時期にやるべきことを会社がやってくださっていたのか、再発防止のため労務の部分でどう対応されるのか……」
「そういう法律構成ですと、こちらはどういうことをすべきだったとおっしゃるのか」
「祐子先生は『向こうの話を聞くだけ』て言ってたのに、なんか全部ぶつけてた感じ。腹が立ってたのかな。白井ちゃんに対しては『白井さんが関わってくださって以降は尽力してくれた』とやんわりと逃げ道を作ってあげてたけど、そのあたり、やっぱり役者が違うよね。ともかくあたしは『何かしたなすび』よりも『何もしなかったハルモニア』にこそ怒りを感じてる、ということが伝わったようで、少しすっきりしたよ」
「ここで認否や主張の突き合わせをしてもしょうがない、というのは確かに野島先生のおっしゃるとおりで」
ここで初めて、大きく朗らかな声が会議室に響いた。芋坂だった。




