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第十章 燕雀 4

 向井や葉月、えりかたちの助けも得て、ようやくここ数カ月の事件の流れをまとめることができた。それを持って、ひかるは野島弁護士事務所を訪れた。

「あなたの仲間には探偵さんが多いわね」

 祐子は笑っている。

「六月が式で、明けて七月初旬に炎上、なすびがここでずっと騒いで、その後テレビと週刊誌が後追い。ハルモニアの肥後夫妻への説明内容が不正確で……白井という弁護士が、ここで顔を出した……。ビジネスネームを使って転勤、引越しもここで勧められてるのね」

 高橋や大森の説明内容、美濃が花のスケッチを見せ忘れた件、ついでになすびが炎上ツイートを行う際は逐一肥後夫妻に確認を取っていたことなども書き加えられている。

「どうでしょう? 分かりやすいでしょうか」

「この白井ちゃんって子、頼りないなあ」

「はは、そうですかね」

「あなた、精神科の先生にも通ったのよね」

「一応、その白井さんに最初に相談した時に勧められて。すごく面白い先生でした」

「どんなふうに?」

「悪い会社に捕まったね、逆に週刊誌に売ってやれ!って。何度か行ったけど、雑談みたいな感じで意外でした」

 その説明を聞き終えた後、祐子は奥にいた哲を呼んだ。そして説明を始めた。その顔はいつもより少し真剣なものだった。もちろん普段が不真面目というわけではないが。

「裁判には問題なく進めると思います。ただこの件は、実は日本に前例がないの」

「え?」

 目を丸くするひかるに哲が説明する。

「炎上による名誉毀損の裁判というのは、もちろん判例があるんです。でも今回で言う『なすび』ではなく、その要因を作った、誤解を解かず、あまつさえ別の社員の責任にした企業に対して『炎上についての安全配慮義務違反を問う』というのは日本で初めてのケースなんです」

「はあ……」

 訴訟ですらまだピンとこないところに「日本初」ときた。自分のことなのに、全く理解が追いつかない。

「だから僕らも、もう少し勉強する時間が欲しいんです。いつも以上に準備を整えたい」

「地裁は前例のないケースを嫌がるのよ」

「なるほど、そういうものですか」

 おそらく腰が引けるであろう裁判所に対し、証言と証拠と理屈をきっちり叩きつけるってことか、とひかるは理解した。

「一カ月程度、時間をください。資料をいろいろ探して勉強します」

 豪快な祐子に対し、正確で穏やかな哲。法テラスで野島弁護士事務所に当たったのは本当に偶然のめぐり合わせだった。「あの時ゆうちゃんに出会ってなかったらどうなってただろう」と、ひかるはいつも思う。

「お任せします」

 ここ数日コンタクトを取ってこなくなった高橋や白井たちハルモニアの人々はどうしているのだろう。あるいは肥後夫妻との和解が(有利に)進み、安堵しているのだろうか。

 こうして訴訟騒ぎは今日から約一カ月、少なくともひかるの前では動きを見せなくなった。

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