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第八章 乱戦 8

 その葉月はというと、この日もツイッター上でなすびやそのシンパと舌戦を繰り広げていた。その様子を、コンビニで買った昼食を取りながら会社のパソコンで見ているのは向井だ。彼の画面には、フォローしている「アリス(葉月)」「なすび」のほか、先日登場した「ハチ」などのつぶやきが流れていく。


 アリス「夫婦側の落ち度が見えてきましたよね。式場側に言われた『控室から出る時はスタッフに声を掛ける』などのルールを守らなかったこととか。そういうことを黙って『式場が悪い』って言ってるからなすびの話は全く信用できないって言ってんの」

 なすび「そもそも式場側のミスが多い時点で言い訳できないだろ。式場側が全額免除、旅行券、海外挙式のやり直しとかいろいろ言ってきてる。つまり言い訳できないほどの非があるって認めてるってこと」

 アリス「だからといってそれをA山さん一人に被せるのが正しいわけ? ぼんやりと『式場スタッフ』みたいな言い方してないで、これはこの人のミス、あれはあの人のミス、て細かく指定して個別に言うなら分かるよ」

 ハチ「焼酎に鷹の爪を二個浮かべて飲むのが一番好き」

 なすび「新郎新婦側にそんなこと説明する責任なんてないだろ、悪いのはA山とハルモニアなんだから」

 ハチ「そして焼酎は炭酸水で割る。これを金魚酎って言うのだ」

 言い合いに参戦していないハチは、ちょうどこの時、好きな酒について独り言をつぶやいていた。

 アリス「ないわけないでしょ。夫婦もなすびも全部責任をうやむやにして、無関係のA山さんに押し付けて喚いて」

 なすび「黙れ関係者。A山が嫌がらせしたのは夫婦がそう感じてるわけだし、式場側もA山の責任と言ってる以上、告発はやめない。テレビでも言ってたけど鬱を発症した友人はまだ仕事にも復帰できないんだ。あのA山って便所女を許さない」

 ハチ「すみません、またなすびさんに対してちょっと思うところがありまして、割り込ませていただきます。言葉は選んだ方がいいと思います。あなたの時として乱暴な言葉づかいは、ご夫婦にとって迷惑になりませんか」

 なすび「また関係者か。別アカウントでこっちのプライバシーを逆に晒したりしてきてるのはお前だろう。新婦の本名とかをネットに書いたり。こっちは弁護士に相談中だからな」

 周囲も「訴訟だ、詐欺で訴えろ」とはやし立てる。

「ネット弁慶どもは、すぐに弁護士とか訴訟とか言いたがる」と書きかけたまさにその時、葉月にLINEが入った。差出人は「ずんだちゃん」となっている。

 急いで開いたメッセージには、次のように書かれていた。

「心配かけてごめんね。今も闘ってくれてるトコだったんだね」

「うん、自分のことより腹が立つもん」

「今日、法テラスに相談に行ったんだ。そして、弁護士先生を雇うことにした! 初めてでよく分かってないけど!」

「本当に!? どんな人? いい人そう?」

「うん、なんか、副会長だった!」

「そうか! よく分からないけど副会長なら安心だね!」

 久しぶりにずんだちゃんが明るい、と葉月はうれしくなった。今はまだ外みたいだから、詳しいことは後で通話で聞くとして……。

「ちょうどなすびが弁護士がどうのこうのって言い始めた」

「見てた。言っておいて。じゃあお互い弁護士を立てて話し合うことになるね、と」

「分かった。ずんだちゃんの迷惑にならない程度にぶっ飛ばしてくる」

「頼んだ」


 二人の軽妙な会話は、三週間ぶりだった。葉月は高ぶる気持ちを抑え、なすびに一言だけ言い放った。

 アリス「なすびも弁護士雇ったのね。じゃあA山さんの弁護士から連絡が入るわ、明日にでも」


 向井の目は「A山さんの弁護士」で止まった。そして同時に、ツイッターの流れも急停止した。七月二十三日、午後一時。ネットに吹き荒れていた風が、今、一瞬だが凪いだ。

「止まった」

 つぶやいた向井の机に置かれているスマホが、不意にブブ、ブブ……と鳴動する。ひかるからのメッセージだった。当然その内容は、葉月が見たものと同じ内容だった。

ハルモニア仙台編 完

野島弁護士事務所編に続く

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