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第八章 乱戦 4

 気にするなという会社からの通達が何度入ろうが、気になるものは気になる。ほのかは今日も婚礼部の事務所でスマホを触っていた。

 ひかるの件でまとめサイトが乱立し、どこも「逃げたプランナー。悲劇の夫婦はテレビで告発」「ハルモニアの対応はここまでひどかった」「問題のプランナー・A山ひかるの卒業校、年収、住所判明」など、好きなことを書いている。

「今日は聞き取りで、青山が来るんだっけ。これ、どうしたらいいかな」

 麻衣に話し掛けた千夏が持っているのは、一通の手紙だ。差出人は若い女性だろうか、かわいいデザインの封筒に入っている

「誰宛て?」

「婚礼部だね。でもこの差出人のお名前、確か青山が受付からプランニングまで担当した人だと思う。大森さんに渡すべき?」

「あの人と美濃さんは支配人室に入りっぱなしだし、こちらで開封しましょう」

 大森たち「会社側」の意識が強い人間に任せていては、今回の一件は余計に長引く。麻衣は主席サブチーフとして、手紙を受け取った。

 中の便箋も、封筒のキャラクターに合わせたものだった。

 最初、十秒ほど黙読した麻衣は、すぐに声を出して千夏、ほのかにも読み聞かせた。

「ハルモニア仙台の皆さん、そして婚礼部の皆さんへ。ご無沙汰しています。先日、ハルモニアさんで結婚式を上げさせていただいた佐々木えりかと申します。その節は本当にありがとうございました。温かいプランナーさんに寄り添っていただき、とても素敵な式と披露宴を挙げることができました。参列してくれた友達にも大好評で、みんなで集まった時には、今でも話題に出るほどです」

 ここで一息、間があく。

「うれしいですね、今、こんなお手紙を頂けるなんて」

 ほのかがつぶやいた。麻衣が続ける。

「私たちの担当をしてくれたのは、青山さんでした。今、ワイドショーやネットで青山さんのことを見かけます。とあるご夫婦に嫌がらせをしたという内容です。もちろん、私なんかより皆さんの方がご存知ですよね。でも、信じられないんです。青山さんは私たちの、ぼんやりとした希望を全部聞いて、演出も飾り付けも完璧に組んでくださいました。お料理のメニュー決めも見事にフォローしてくださいました。打ち合わせ中は何度もお手紙を頂いたし、当日だって、一緒に泣いて喜んでくれました。その青山さんに限って、テレビやネットで言われているような『仕事を投げ出して逃げる』『お客さんに嫌がらせをする』『お詫びにも出てこない』などということがあるでしょうか? 私にはとても信じられません」

 千夏もほのかも、麻衣の持つ便箋をじっと見つめている。麻衣は続ける。

「私には、むしろ会社のどなたかが青山さんに嫌がらせをしているとしか思えません。青山さんは大丈夫ですか? 誰か守ってくれる人はいるのでしょうか? 良くないことかもしれないけれど、私も青山さんを知る者として、ネットで『あの人はそんな人じゃない』と何度も書いています。でも騒ぎが大きすぎて全然ダメで。だけど、これだけは青山さんに伝えたい。私も、私の友達も、みんなインターネットで『青山さんのプランニングで、とてもいい式を挙げた人だっている』『私もその一人だ』って声を上げています。この声が、青山さん、いいえ、私たちのひかるちゃんに、届きますように」


 ……ぱさり。手紙を元通りに折り、封筒に入れ直す小さな音だけが事務所に響いた。

「もうすぐ青山が来るね。この手紙、彼女に渡すね」

 麻衣は二人から顔を背け、壁の時計を見上げるのだった。

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