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第七章 正義 6

 炎上四日目、今日もなすびは怨嗟のつぶやきを書き込んでいた。

「友人が受け取った引き出物の紙袋には値段の書かれた納品書が入っててびっくり。こんなのあきらかわざと」

「プランナーは二人付いていました。男性プランナーの方がいろいろコントロールしようとしてくれましたが『A山の暴走は止められなかった』と泣いて謝ってくれました」

「三カ月前に会場変更をA山に電話で伝えて以降、A山はチェンジ。その後はこの男性プランナーが頑張ってくれましたが、時すでに遅し」

「貸し切りという話だったのに、別のカップルと鉢合わせとか。こんなダブルブッキングができるのは受付担当のA山だけ。そのせいで友人夫妻は披露宴会場の飾り付けもできなかったし、そのせいかどうか知らないけど、花の量もショボいし。花の件は花屋が逃げてるらしく、事実は分かりません」

「一番ありえないのは、新婦があれほど伏せたがっていた旧姓を式や披露宴で呼んだこと。A山はなぜここまで嫌がらせできるのか、理解不能」


 なすびがいろいろ書き込むたびに、義憤に駆られた観客たちの声は、大きく、熱くなっていく。

「ここまでの悪意ある対応って、新郎新婦への復讐かな? 何か恨みでもなければここまでのことできないと思う。ミスにしては不自然だもん。A山は新郎新婦を恨んでいた?」

「おい青山、お前どんな顔で『ウェディングプランナー』とか名乗ってんだ? 恥って言葉知ってる?」

「フェイスブックには他人の顔写真使うとか、炎上上等の犯行ってのははっきりしてるらしいね」

「新郎新婦さん、これ弁護士案件でしょ。徹底的に闘った方がいいよ、この騒ぎを知った日本中の人が応援するよ!」

「花はスケッチ付きで説明があるはずだけど、新郎さんの言い分、ちょっとおかしくない?」

「とりあえず青山を引きずり出せよ。ホテル側も自分たちの評判を下げたくなかったら青山を切り捨てるべし!」

「三カ月前にプランナー変更とか、ありえないと思うんだけど、本当?」

「新郎新婦もなすびさんも、関係者の火消しに負けるな! 事実をどんどん告発して!」


 賛否その比率は大きく偏っているがを含め二万件をゆうに超える拡散ツイート。そしてこの日、ついになすびに連絡が入った。

「なすびさま。この度の結婚式の件、とても興味深く拝見しました。私は『サッパリ!』というワイドショーを担当している者です。まずはダイレクトメールにてご連絡をいただきたいのですが、いかがでしょう?」


 ……来た。本当に来た。やった!

 会社での昼休み、自分のツイッターを覗いた理恵は、文字通り歓喜に震えた。何の変化もない毎日。することと言えば会社の行き帰りに開くくだらないツイッターとスマホのゲーム。毎日を倦むばかり、そんな私にテレビが声を掛けてきた! 理恵はすぐさまダイレクトメールで返信した。

「はい、ぜひ! 私の友人は昨日も今日も泣いて過ごしています。ハルモニア仙台と青山というプランナーを絶対に許せません!」

「友人ご夫妻にお話を伺いたいのですが、間を取り持っていただけますか?」

「もちろんですが、まずは友人夫婦に連絡してみます。返信があり次第、ご連絡いたしますね」

 もはや自分の仕事そっちのけで、理恵は修平にLINEを送った。

「テレビが取材に来たいって! 全国ネットの『サッパリ!』ていうワイドショーだよ!」

「うそ! マジ!? オレ、あの女子アナ好きなんだ! 取材受けたい! ねえ、今晩電話で話さない? ちょっと作戦会議しようよ!」

「うん、ヒマだしいいよ!」

「青山は友達を動員して火消しに必死だけど、勝つのは俺たちだ!」


 修平が作戦会議と言ったその通話には、特に内容などなかった。そこには高揚した修平と理恵がいるだけだった。

「『サッパリ』だけじゃなく、あれからほかにも何件か来たよ。週刊誌も」

「全部受けるよ!」

「ねえ、花の量が違ったこととかプランナー変更とか『本当?』ていう書き込みあるけど、間違いないよね?」

「間違いないよ、全部向こうの嫌がらせだ。昼も書いたけど、青山は友達を使って『新郎の言い分がおかしい』とか『三カ月前のプランナー変更なんてありえない』って書き込ませたりして火消しに必死。でも勝つのは俺たちだよ」

 珍しく詩絵里も一言書き加えてきた。

「私たちは、青山に殺されたの」

 詩絵里らしい浸り方だ。

「青山たちもいろいろ反撃してきてるよ。私も過去のツイート掘り返されて、子供の顔とか張り出された……。誰がやってるのか知らないけど、詩絵里の旧姓でアカウントを作って、私とハルモニアの両方を煽る変な奴も湧いてきたよ」

「あいつら、関係者を動員して自分たちを正当化してるんだよ。俺たちがされた嫌がらせは、全部事実なんだ」

「分かった。そういう向こうの匿名の反撃も含め、全部取材の時に言ってやろうよ」

「俺も詩絵里さんも、取材はいつでも大丈夫だから、テレビの人にそう伝えてよ」

 こうして翌日から、修平と詩絵里は取材攻勢を受けることになる。自分たちの正義を疑わない修平の言葉は、取材を受けるたびに、ある意味で洗練されていった。

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