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第六章 烈火 5

「とにかく、警察に相談した方がいいですね」

 西山が言う。警察がどう関わってくれるかは分からないが、とにかく被害届を出せるなら出しておこう、ということだ。

「青山くん、ツイッターだっけ? 自分のことが書かれているところ、自分でプリントアウトしておいてくれ。我々はちょっとそういうの、できなくて」

「え、自分でですか……? 私がやるんですか?」

「俺の名前も出ているみたいだからさ、俺の部分もやっておいてよ。頼むな」

 大森が気楽に「できるよね?」と言い放った。それがどういうことを意味するのか、彼らはおそらく分かっていない。ひかるは「自分への誹謗中傷」を自分で探し、その目で確認しなければならない、ということだ。

 A山は死んで詫びろ。

 新郎新婦がかわいそうだろ逃げるんじゃねーよ。

 SNSが発展したこの時代に逃げ切れると思うなよ。

 短文の形をした湿った悪意の塊が、モニターから浴びせられる。

 今回の「事件」をまとめた、いわゆる「まとめサイト」もでき始めていた。タイトルはというと「結婚式を台無しにされた新婦が悲痛な叫び」「青山ひかるの嫌がらせウェディング」などで、肥後夫妻となすびの言い分を一方的に取り上げたものだ。

 ひかるはそれらを自分で検索し、ひどいものに限ってプリントアウトしていった。こんなみじめなことが、果たして他にあるだろうか。ただただウェディングプランナーの仕事が好きで、頑張ってきたのに。ひかるは作業の中で、泣き崩れた。


 一時間後、大森がタクシーを呼んだ。乗り込んだのは、支配人の高橋とひかるだ。

「民事不介入とかいろいろあるけど、どうなるのか……」

 事態を飲み込めているのかいないのか、高橋の口調はどこか軽い。

「こういうのって、会社の弁護士、顧問弁護士っていうんですか、何かしてくれたりするんでしょうか」

「もし弁護士を動かすとなったら、金が掛かるんだよ」

 金? 金だって?

「会社でできることはするけど、インターネットの書き込み?への対処は、自分でやっておいてくれ」

「え? 会社が対処してくれないんですか?」

「皆忙しいから。そのあたりは何というか、自分で対応を、してほしい。いいかな。まあ人の噂は、数日すれば収まるだろうし」

「待ってください」

 ここでタクシーは仙台中央署に着いた。会話は途切れてしまった。


 中央署では玉村という刑事が話を聞いてくれた。ひかるが事の顛末を説明する。先ほど葉月と話したことが幸いし、理路整然と伝えることができた。今のところ脅迫などはないが、これからどうなるのか、どうすればいいのか、ひかるは玉村に助言を求めた。

「いわゆる炎上というやつですね。今現在、警察にできることは正直言ってあまりありません。しかしこの手の被害が増えていることは確かです。こちらからのアドバイスとしては、高橋さん、明日にでも記者会見を開くことです。それが事態を沈静化させる第一歩です」

「記者会見とは、少し大げさな気がしますが」

「そんなことはありません。伺うと、人違いな上に式場側のミスも多かったわけです。ハルモニアさんとしてはちょっとしんどい面もあるでしょうが、速やかに事実を公表することです。事実が分からないからこそネットは盛り上がってしまう。事実さえ伝われば『そうだったのか』と沈静化することも多いのです。それこそ人の噂も七十五日、ですよ。まずは社員を守ることを考えてください。それが今、私から言えることですね」

「では弁護士と相談して……」

 高橋は、そう答えるのが精いっぱいだった。

 社への帰りの車中、高橋はひかるに「社員を守る手立ては考えるから」と、行きよりは幾分ましな言葉を吐き出した。「よろしくお願いします」とひかるも答え、その後、沈黙が訪れるのだった。


 ハルモニアの支配人室に戻った高橋は、待っていた西山に、警察で記者会見を勧められたことを報告した。

「記者会見ですか」

 重々しく西山は吐き出した。

「それが今どきの一般的な対応だ、と」

「分かりました。一度、ワールド内で話し合ってみます。高橋さんは、全社員に『インターネット等での情報発信を慎むように』と通達を出してください」

「分かりました」

 こうして西山は東京へと戻っていった。

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