始まりの、少し前
面倒見が良く仕事好き、コミュニケーション好き。小柄だが体力もそこそこ。そんな彼女が二十代半ばで就いた仕事は、地元芸能事務所の制作担当だった。
イベントを企画し、アイドルを立たせ、舞台を盛り上げる。東京から映画の撮影クルーが来ればエキストラを送り込み、さらには撮影のロケーションも考えた。
そして、適度に突き放し適切に構う性格は、マネージャー職にも向いていた。自分より若い女の子たちを、叱咤し、なぐさめ、かわいがる。遠方への出張など時間も場所も不規則な仕事だったが、仕事とコミュニケーションが好きだから、忙しい毎日にアジャストできてしまう。天職だ!と大げさに思わないまでも、楽しい毎日だった。
しかし、社会人経験者なら誰でも分かるように、社会や会社では、価値観と価値観、正義と正義は衝突するものだ。「誰それが優遇されている」「この部署にしわ寄せが来ている」。どこにでもある摩擦と不満。現場と「上」が衝突を繰り返す中、業績は悪化していった。
適度に突き放す女は、軽やかに転職を決めてしまう。職場で評価の高いひかるに対し、転職エージェントがすぐに仕事を見つけてくれたことも、決心を後押しする材料になった。
紹介されたのは、ウェディングプランナーの仕事だった。適切に構う女には適職に見えた。決断は早かった。
その後、芸能事務所は縮小を繰り返し、閉鎖するに至った。
こうして彼女は、炎上の火元へ近づいた。