始まりの、もっと前
「誰かが死なないと事件にならないのか」
今となっては誰だか分からないけれど、そんなツイートがあった。確かにそうかもしれない。今の時代、炎上案件なんて誰にとってもモニターの向こう側の話。「事件未満」の「ネタ」「話題」「出来事」でしかないもの。
この夏に起こったこと、それは私にとって大事件だったんだけれど、でもやっぱり、ネットやテレビの人にとっては「出来事」だったんだ。
取材時、青山ひかるさんの言葉より。
青山ひかるは、ユニークな女性だった。人とのコミュニケーションが好き、仕事が好き。甘いものも好き。撃ち合いのゲーム(FPS)が好き、車の運転も好き。でも、同性の友達はそこまで多くもない。
趣味であるFPSでは、ネットを介してゲーム用語で言うところの「フレンド」、つまりはゲーム仲間も増えた。名前も顔も知らない、でも同じ趣味を持ち、気が合う仲間が集まるネットコミュニティーが生まれたのだ。そんなフレンド用に、五年前から「ずんだ」の名義でツイッターなどのSNSも続けている。
ツイッターを開けば、そこは常に、親しみや多少の好意を持ってくれる数十人の男女のフォロワーで賑わっている。描いた絵の写真を上げれば「下手すぎる笑」と皆が沸く。料理写真、例えば自分ではオムレツだと思っているものを上げれば「呪われた腕!」と笑いと悲鳴のリプライが返ってくる。そんな日常だ。
「姉」だからか、ひかるは面倒見がいいタイプだ。適度に突き放し(だから同性の友達が少ないのか)、適切に構う(だから付き合いの長い友達はそこそこいるのか)。弟との距離感もちょうどいいのだろう、二人は仲がいい。弟の恋人もなついてくれた。もうすぐ結婚するらしいが、いい義姉妹になれそうだ。
別々に住んではいるが、言うまでもなく両親との仲もいい。父は仕事で海外に行っているが、その分、母とはよくランチに行くなど良好な関係だ。
普通にある現実と、普通にあるネット。うまく付き合えているはずだった。「バーチャルの人間関係なんて……」と眉をひそめる世代ではない。今では誰もが簡単に、トークやゲームをネットで発信できる時代なのだ。
ただ、自分を表現する場が増えれば増えるほど、セキュリティーに気を付けなければならないことは、デジタルツールを使う者なら誰でも分かっている。そうならないように気を付けていても、予想外の出来事が起こる……それも、誰もが知っている。だから「ずんだ」名義のツイッターはもちろん、プライベートのフェイスブックなどでも多少フェイクを入れるなど、それなりのケアをしていた。ひかるの場合、「自分が住んでいる」「たまたま名前が似ている」という理由で、宮城県選出の国会議員の似顔絵をそれぞれのアイコン=自分の顔写真に使うという「おふざけ」をしていた。このフェイクが、後に災いするのだが……。
仕事が好きで、そこまでの情弱(情報弱者=インターネットで情報を調べるスキルのない人を指すスラング)でもなく、クセはあっても人当たりが良い。ユニークではあるが、今の時代、希少種ではない。そんな女性が、これから炎上する。