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第三章 火種 1

 比較的、雪も少ない一月半ば。とはいえ東北地方の式場がこの時期に忙しいはずもなく、必然的にプランナーたちは、打ち合わせやブライダルフェアに時間を費やすことが多かった。

 当然、美濃も打ち合わせをいくつか抱える身だったが、五月に挙式を控えた肥後夫妻との打ち合わせは、ブライダルフェアでの来館を合わせれば、すでに十数回になっていたのではないだろうか。

「招待状の打ち合わせなんです」「あら、すてきですね。かわいいのを選んでくださいね」。

「今回の試食会フェアも、美味しかったです」「ありがとうございます、ドレスもいろいろ選んでくださいね」。

 肥後夫妻と顔を合わせるたびに明るく挨拶や雑談を交わすひかるだが、一体、これで何度目だろう。事務所で、ほのかが小声で言ってくる。

「月イチのフェア、肥後さん夫妻って皆勤ですね。美濃さん、打ち合わせの中で毎回お声掛けしてるんでしょうか。でも、どうも最近、新婦さんが楽しそうじゃないんですよね、どうしたのかなあ」

 ハルモニア仙台が主催するブライダルフェアは、毎月一回。基本的には式場選び中のカップル向けだが、仮契約、本契約を済ませた客にも声を掛けることがある。フェアが賑わってくれる分には、ハルモニアも大歓迎だからだ。特に冬場は閑散期で、一人でも多くの来場者が欲しいところだった。

 とはいえ、すでに打ち合わせもかなり進み、本来はドレスや食事の内容も決まっている(はず)のカップルがここまで毎月欠かさず精力的に参加するというケースはかなり珍しい。四カ月前というタイミングは、どちらかというと、自分たちが決めた内容を深く濃く煮詰めていく段階だからだ。

「青山、どうせ強引に契約取ったんでしょ。肥後さんご夫妻がいろいろ決めかねてる段階で、無理やり契約したんじゃないの?」

 そう嫌味を言ってくるのは、先輩の藤田千夏だ。ひかるが入社後、成績面で二位から三位に落ちたことが気に食わないのだろう。同世代の麻衣にも成約率などで差をつけられているが、同じくサブリーダーでもあるため当たることはできない。当然、的はひかるということになる。

「だからお二人、優柔不断みたいな形になってんじゃないの?」

「ちゃんとお話しして契約を頂いてます。打ち合わせも美濃さんがしっかり進めているはずです」

 時に「新人潰し」と言われる千夏に対し、臆することなく言い返すひかるだった。


「無理、強引、って言われても、頑張って契約を取るのが受付担当の仕事だし。それを半年なり一年なりの時間を掛けてじっくり煮詰めるのがプランナーの腕の見せどころでしょうに」

「まだ予定の五月までは日もあるけど、私からまた大森さんに言ってみるね、全体確認も含めて。あなたからじゃ言いにくい部分もあるでしょう」

 完璧主義の麻衣は、外見上冷たく見えられることもある(実際、社員研修などでは冷たく突き放された)が、部内のコントロールはしっかり取ってくれる、ひかるにとってはありがたい先輩だった。できるならば千夏の嫌味の真っ最中に助けてほしいものだが、千夏は麻衣より二歳ほど年上。麻衣と千夏の距離感とは、そういうものだった。

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