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その雪解けを希う  作者: 誉山 久
第一章 『雪が滲んだ日』
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プロローグ 『雪に埋もれて』

寒い寒い寒い寒い寒いさむいさむいさむいさむいさむい。

冷たい冷たい冷たい冷たい冷たいつめたいつめたいつめたいつめたい。



身動きも取れずに、ただ淡々と雪が投げ出された体に降り積もる。もうそろそろ意識が途絶えてしまうだろう。


もう、抵抗する手段も仲間も気力も可能性も切れてしまった。絶ってしまった。諦めてしまった。もはやこれ以上はどうにも仕様がない。



だから、だからこそ、


風前の灯火の如き最後の力を絞り出して『能力』を酷使する。


刹那、氷結した体躯に『温もり』が宿る。その温もりでもって閉ざした瞼を押し上げる。



どのみち忘れてしまうと知っていても、

この瞬間が無に帰すと知っていても、

たとえそうだと知っていても、この最後を見届けたかった。


いや、見届けなければならないのだ。



最後まで同じ志を貫いてくれた二人の勇姿を。


苦心惨憺の溶けた親友の涙を。


自身の正義が折れ、自傷するあの柔らかな微笑みを。


掛替えのない家族を守れなかった自分への弾劾を映すあの黒い双眸を。



そして何より、正義や信義、信念、『能力』その全てが屈し、雪の上で野垂れ死にかけている無様な自分の姿を。




さくりさくりと新雪を踏みこちらによって来る音が聞こえる。


その音が目の前で止まり、瞬く間の静けさが訪れ、聞こえてくるのは雪の降る淡い音だけ。



その音よりもさらに淡く、儚く優しい声が頭上から降ってくる。


「必ず幸せになって。たとえニセモノの世界でもきっと幸せになれるから。きっとそうする。そうしてみせる。あなたも、皆を幸せに」



彼女の言葉に言い返す言葉が作れない。思考の回路は凍り付き、身体は動くことを忘れてしまっている。


ただ、ひたすらこの瞬間を脳に刻みつけようと本能が足掻いている。




「だから、今はさようなら」




彼女が言葉を締めくくった瞬間、身体は氷に纏われ、意識は完全に途絶する。



意識の断絶寸前、夕闇に照る銀世界に、僅かな淡い光を放つものが見えた。


あれは決して手放してはならないものだった。彼女と繋がるたった一つの憑代だ。




だけれど、もう、それに手を伸ばして掴むことは叶わない。


だけれど、もう、それをこの温もりで温めることは叶わない。


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