09
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妹が生まれてしばらくすると、変なことに気がついた。いろいろな物が空間に浮かんでいる。魔法ではない。この世界では魔法素子マナが存在しない。人間が元来持っていた能力、そう、超能力である。おずおず、姉を見る。姉は自慢げに「スージーは天才なの。」トムは焦る、妹の能力を祝福してやれない。
トムは一人で部屋に閉じ籠り、ひたすら目の前にある積み木を倒そうとする。しかしどんなに精神を集中してみても、積み木は倒れない。すでに10時間以上頑張っている。おもえば妹はお腹にいたときから、念話が使えた。狼に対しても、恐喝していた。このままなら、兄貴の沽券にかかわる。
夕食を作らなければならない。姉には1ヶ月は休んでもらう、約束だ。レバーをフライパンで両面焼き上げ、ニラ、もやしを入れ、塩、胡椒、醤油、酒、砂糖、みりんで味付けをする。
妹に顔を会わせるのが辛い。妹はお乳を飲んでいた。トムの苦しみを知らぬげに、幸せなやつだ。
「トム、騎士団のかたが見えて、魔獣の間引きが始まるといっていたよ。」僕はしめたと思った。このままでは妹に対する劣等感で押し潰される。
夕食はたのしかった。家族が増えるだけで、こんなに楽しいものだとは思わなかった。妹のつややかな頬っぺたを指で突っついて遊んだ。まだ首がすわらないから、乱暴なことは出来ない。
「姉さん、いってきます。」姉さん、スージー、自動人形と狼は戸口まで見送ってくれた。さて、これからどの様な訓練をすればいいのか?このままじゃ、妹においぬかれたままだ。トムは今まで以上に気合いをいれる。
騎士団の会議室。トムも一応騎士団の幹部だ。誰でも医者なら、だれでも幹部の端くれということになる。この国の現状は魔獣討伐をしないと、人間が駆逐される。過酷な環境で人間は生きている。狼が家のボディーガードをしていても、安穏とはいえない。均衡が破られれば、人間は絶滅する。
トムは妹の能力に対処する自分の進路を考えた。今は僕には手品しかない。黒い布を地面すれすれに飛ばす、かげばしり。日本古来のわづまの胡蝶の舞、それを深く追求していくしかない。そして、きっと魔獣討伐にも役に立つはずだ。基本に立ち返れ、自分に強く言い聞かせた。




