08
魔法のない世界に転生して08
灰色狼は誇り高く、知能は人間と変わらない。ならばひとつの自我として認めて協力を仰ぐか。無理だ、誰もがそう言う。トムは思う。まず力を見せて、服従させてからの話だ。トムと灰色狼の対峙はつづく。トムから影が走る。一本、二本、三本と影が走り、灰色狼を攻撃する。いつのまにか幻覚の世界に灰色狼はいる。頭上には白い蝶が銀ぷんを撒き散らしながら、飛んでいる。はげしい念話がトムを襲う。「小僧、われに戦いを挑むか、こざかしい。」トムは狼の畏怖にたえた。他のものなら、狼の畏怖に恐怖して、逃げることも出来ないだろう。狼はトム目掛けてあまかける、空中から鋭い爪でトムのからだを砕く。トムのからだは黒い影となって四散した。
四散した影が狼を包む。狼はなんとか逃げようとする。白い胡蝶が狼の頭上で優雅にぎんぷんを撒き散らす。あろうことか、狼は、いのちがけの戦いのさなか、眠ろうとする自分に気がつく。気がついたとき、狼は檻にいれられていた。
狼とトムとの精神的な対峙はすでに一ヶ月に渡っている。エリカも狼が念話をつかうことに興味を持つ。トムは狼と姉との対面を興味を持って見た。狼はエリカを見たとたん、そっぽをむく。突然エリカのおなかのなかから激しいねんわがきこえた。「あんた、なにふざけた態度とっているんだ。おねえちゃんがおとなしいからって、なめてんじゃないよ。」まるで恐喝するような、言葉だ。これが妹だと思うと、頭がいたくなる。姉がわらっている。狼は、うろたえている。
狼は、トムの軍門にくだった。エリカと、おなかの、あかちゃんが出てきたので、逆らってはいけないと思ったようだ。知能が高いから、エリカから神威を感じるのだろう。女神エリカの力がなければ、トムだけならば、服従しなかっただろう。
トムとエリカは正式に、騎士団所属の医師になった。同時に街の医師でもある。人間と魔獸の勢力が拮抗していたが、国どうしの争いはたえず、それ以上に地方領主が国王に完全には従っていないと、言う問題がある。ここの騎士団も地方領主所属の騎士団である。ここの領主は辺境候という身分らしい。なんでも国王に次ぐ、兵力をもっているとのことだ。
トムはあれから、機会あるごとに魔獸に挑戦し続ける。無傷で帰ったことはなかった。
狼は家で姉のガードマンをやっている。ときどき姉の見ている前で模擬戦をやってみせる。姉は興味深くみている。僕は大型ナイフを片手に、左手は腰において構える。狼が僕の周囲に円を描いて歩く。僕が狼に向かって走る。狼も走る。一瞬に交差した。胡蝶が舞う。雪のような胡蝶の群生が僕の姿を隠す。狼が空中を走る。影を捕らえた。瞬間、影が崩れる、数十本にわかれた影が狼を襲う。狼が跳躍して、はるか後方に逃げる。そのとき「みごとです。」と姉の言葉が聞こえた。
トムは狼と、戦っても、かなりの確率で勝つようになった。しかし、姉のようには、トムには従ってくれない。
妹が姉の腹から出てきた。可愛らしいあかごの姿である。姉がみどりごをいくつしみを込めてだく。「名前は決めたのですか。」「スージーというの。」姉は赤ん坊をトムに差し出した。気持ちよく眠っている。きっと美人になる。トムはひとめみて確信した。




