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魔法のない世界に転生して23
リンは避難民の生きる希望になった。狭い過酷な環境の中でも、人々は新生児の命を守り、育てようとする。特にまだ幼い少女たちはリンの回りに集まる。私と同じ年頃の男の子が、進んで手伝ってくれた。イァンと名乗った男の子は瞬く間の間に、少年少女たちのリーダーになった。長い航海の間に、私たちは打ち解けて、心の底から相互の信頼をもった。喧嘩もした。大喧嘩だった。しかし大人たちは介入しなかった。暗黙のうちに子供の世界にルールが作られた。子供たちの事は子供たちで解決する。言いたい事は言う。互いに遺恨を残さない。生きて新大陸に渡る。新大陸で一人の落伍者も出さないように助け合う。そう、私たちはイァンに巡り会うことによって、将来の不安を払拭した。
しかし大人たちは違った。古歌に、(いずくにか、ふねはてすらん、あれのさき、こぎたみ、ゆきし、たななし、小舟。)とある。あの小さな船はどこに行くのだろう。小舟を自分の弱さに重ねている。もう日の暮れる海の何処に、今夜の宿を取るのだろう。不安を大人たちは抱え込んでいる。
しかし今は違う。イァンの纏めあげた、子供の組織が大人たちを将来の希望へと駆り立てる。「ルイ、洗濯はすんだ?」友達の女の子がのぞきに来る。リンの洗い物だ。みんなで交代でリンの世話をしている。ま水は少ないが、雨が降れば全員で器を甲板にだした。
もうすぐ大陸に着く。私はイァンを甲板に誘った。「思いきって言うね、イァン友達になってくれる。」大陸につくと、もう会えなくなるかも知れない。私は怖かった。「もう友達だよ、ルイがいてくれていろいろ助かったよ。大陸に着いても、みんなで助け合おう。大丈夫、向こうに着いても、みんな一緒だよ。」
私は大陸に着いてもみんな一緒だよ、と言ったイァンの言葉に安心感を抱いた。そして何かはぐらかされた気がした。友達になってくれ、じゃなく、好きだと言わなければならなかったのかもしれない。
港に着いた。港は開拓者のための港といった雰囲気だった。まだ何もかもこれからといった感じだった。建築中の役所で私は国籍の登録をすませた。私やイァンや何人かの子供たちは選別されて、面接を受けた。面接を受けた子供たちは、みんな船のなかで組織を作り、子供同士で護りあった仲間だ。それ以外の子も何人かいた。その子たちは、いろいろな事情で組織に入れなかった子供たちだ。裕福な子供たちが多かった。一人では生きられない子供は無理しても、一緒に活動してもらった。
面接を担当した人間はエリカと名乗った。両脇にトムという青年と、スージーという美しい女性がいた。エリカさんは優しかった。しかし、嘘をついてもすべて見破られるような気がした。私の手をやわらかくにぎってくれた。思わず泣き出してしまった私に、エリカさんは優しく抱き締めてくれた。
イァンはトムさんと、ずいぶん話し込んでいた。私たちは船の仲間とは別行動になった。学校の宿舎に入れられて、そのままスージーさんやトムさん、エリカさんの助手のような立場になった。リンの母親も同じ宿舎にいる。体の弱い母親に代わり、宿舎に入った子供たち全員でリンを育てている。幸いにこの学校には医者がたくさんいる。医者の学校でもある。
スージーさんの助手は大変だった。誰が見ても、スージーさんの研究はこの大陸の命運を握っている。最初は訳が分からなかったが、実践と座学で何となく理解出来るようになってきた。イァンは時々、騎士団の訓練に付き合わされる。たいていはトムさんと一緒である。エリカさんは医者の学校と付属病院の責任者である。
この間、騎士団の魔獸狩りがあった。狩られた魔獸はすぐに調理されて、港中の人々と一緒に、夜遅くまでお祭り騒ぎであった。楽しかった。久しぶりに船で知り合った仲間たちと会えた。




