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魔法のない世界に転生して22
トムが騎士団を纏め上げた。「いいか、敵は魔獣だ。この世界には俺たち以外は、魔獣しかいない。俺は魔獣に襲われた街を嫌というほど見てきた。俺たちは何としても生き残らねばならない。」全員の顔に緊張が走る。「それでは教官を紹介する。元王国騎士団長のボブさん、元辺境騎士団長のウェルさん。」そう、避難民としてこの大陸に来た者たちは、元武官、元文官という国を指揮する立場にいた人間たちだ。いまここにいる騎士団員は、元王国最強の者たちが集まっている。いままでのトムでは、一合も剣を合わせること無く負けていただろう。しかし立場が拮抗しているため、誰もが主導権を取れない状況に陥った。トムが名乗りを挙げないと、力あるものも、烏合の衆になりかねない。とにかくトムは完全に軍隊を掌握した。ともすればバラバラになりやすい樽に強固なタガを打ち込んだ。その意味するところは大きい。
「全員に集団戦を覚えて貰う。魔獣は強い。しかし集団でかかれば必ず勝てる。」ボブさんの挨拶の後、集団としての激しい訓練が行われた。トムは魔獣との戦いをたいして警戒していない。けして魔獣を侮っている訳では無い、全面的に戦士たちの能力を信じているのだ。集団戦の力は、トムもかって騎士団の幹部だった一人として、体に染み付いている。
エリカも学校で医師の育成に力をいれる。辺境候がエリカにつけた20人の婦人衛生兵を改めて医師として教育し直す。エリカとともに苦労を分けあってきた者たちだ。固い絆で結ばれた者たちだ。こんな魔獣だけの大陸に、エリカを慕って集ってきた者たちだ。
騎士団の一回目の魔獣の間引きが行われた。エリカ、トム、スージー、自動人形、狼が随行した。
「辺境候の頃の騎士団を思い出しますね。」トムは嬉しそうだ。魔獣の食用肉が手に入る。今日は祭りだ。エリカも嬉しそうだ。勿論灰色狼はよだれを流しながら、行軍する。スージーも離乳食を離れて、最近は魔獣の肉も食べる。
魔獣の集団がトムめがけて押し寄せる。一匹の魔獣がトムを確かに倒したと思った。トムの体は影となり砕け散る。砕けた影は魔獣の集団に降り注ぐ。襲った魔獣は狂気に支配された。恐怖に陥り見境もなく仲間を襲う。集団が一匹の狂気に伝染した。恐怖に飲み込まれた。トムは魔獣の影に潜み、トムにしか見えない魔獣の弱点、死線にそってロングナイフで切り刻む。生きたまま解体される魔獣は絶望の叫びをあげて、ドォっと倒れる。騎士団が槍で3人が組となって、一匹ずつ仕留めていく。騎士団は安全が確保されると、早速血抜き、解体にはいる。
怪我人はすぐにエリカのもとに運ばれる。「どうだ、大丈夫か?」団長のボブの心配の声に、「大丈夫。みんな軽傷です。」女医師が明るく答える。トムが魔獣の肉の調理にはいる。香ばしいステーキの臭いがあたりに漂う。手伝いの料理人が、トムと息をあわせて、次々と料理を作る。仮設の炊事場の赤々とした炎が、中央に焚かれた大きな炎が、肉の焼ける匂いと、人々の笑い声に、今日の祭りを盛り上げる。
「この大陸に移ってきてから、初めての大規模な魔獣狩りだね、成功して良かった。」ウェルさんがボブさんに話しかける。隣で遠く二人を見る少女がいた。
二人の騎士団の元団長が親しく談笑する姿はホットします。私はルイ、だってこの国の未来を見る思いがします。私たちを追い出した人間と魔獣の大陸は、いまだ人間同士が争っている。小康状態を保っているといっても、粛清のギロチンによる処刑が見世物になっているという。何が正義か、誰が悪かなど誰もわからない。昨日まで革命の英雄と呼ばれた美しい女性が、今日は男たちのなぐさみものにされて、反逆者のレッテルを貼られて、ギロチンのつゆになる。
私の両親も殺された。しかし身近な人たちの尽力により助けられた。救助船にはイァンという同年代の少年が乗っていた。貴族の婦人が船の上で出産した。女の子だった。名前をリンと名付けられた。




