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転生  作者: まつ
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19

魔法のない世界に転生して19


 辺境候は食料を海に求めた。僅かに海に接する海岸を拠点にして、近海漁業を考えた。トムが海岸の調査にむかった。


 「すぐに実行可能な湾岸設備を設計する。この計画がうまくいけば、食料問題は大幅に改善される。」トムの号令で設計の事前調査がすぐに行われた。トムは鮮魚加工工場、造船所、を有する基地を計画する。そこから狭い海岸まで運河を作る。さらに基地都市から既存の河川のネットワークを作り、物流の基礎とした。


 トムは女神エリカにお願いして、作業用自動人形を8体と土木機械を借りた。運河作業は時間との勝負になる。出来るだけ水路の高さを調整しないで、海面の水位だけで内陸部まで持ってくるつもりだ。運河の終点には船舶ドッグ、鮮魚加工所、宿泊所、各種訓練所、病院を設置するつもりだ。


 既存の河川の調査も進み、そうとう大きな工事になる。精密な平面図、縦断面図、施工計画、積算を短期間のうちにまとめて、許可を貰う。運河工事は上流から進められていく。多くの工事関係者が集められて、昼夜にわたる工事となる。作業自動人形は運河作業を優先する。海岸に達する直前まで掘り進めて、掘られた残土は運河の両脇に土手をつくられる。水門が作られる。この水門が閉められた状態で海岸の水を運河と繋げる。運河上流の工事は平行して進む。漁船製作所、鮮魚加工所、図面どおりの設備が作られる。漁船製作所は完成と同時に、漁船の製作に取りかかる。製作技術は自動人形にインストールされた造船技術を徹底的に学ばされ、訓練された技術者があたった。トムは色々考える事もあったが、ここまで来ると、ぶっつけ本番しかない。漁船の操船も、魚の取り方も、やりながら、覚えて貰うしかない。


 水門が開かれ運河に海水が入る。新造漁船がドッグより運河に浮かぶ。技術者が水漏れを徹底的に調査する。「大丈夫だ!このまま海まで操船するぞ。」全員が万歳する。何から何まで初めてづくし。作られたばかりの漁具を使い、初めての漁業をする。ここまではうまくいった。トムも安堵する。


 「姉さん、ただいま。仕事は無事終わりました。」トムはひさしぶりに、始まりの街に帰ってきた。亜空間収納袋には天日干しした魚が数多く収納されている。スージーが飛びついてきた。「兄さん、会いたかった。」まとわりついて離れない。


 「領内唯一の漁港をつくってきました。」「ご苦労様、領内の産業の基盤になるかしら。」「あのあたりで、漁をやる国は有りませんから、魚介類は豊富です。外国との貿易も考えられます。」「将来が楽しみですね。」エリカが言う通り、将来が楽しみである。運河の大きさには余裕がある。ただ他の都市への交通が問題だ。今回は漁港を作っただけだ。勿論領内ただひとつの造船所も作った。魚介類の加工所も作った。しかし天日干し程度の加工しか出来ない。


 「運河を作って、河川同士を繋げなければ、将来性はないでしょうね。」「しかし、いまは時期がまずいですね。」スージーも含めて、意見を言い合う。「いっそのこと、領都を、始めの街から、漁港に持っていったらどうでしょうか。」みんなが女のほうを向く。初めてだ。女が意見を言うなんて。


 その通りだとトムは思う。もう少し領内に経済的余裕があれば、河川のネットワークを作り、物流を活性化すれば、国内一の大都市にすることが出来る。いまは魚介類の天日干ししか出来ないが。今度領主がここに来たとき、女の意見として、言ってみよう。


 辺境候の領地は綱渡り状態であったが、何とか一年目をやり過ごす事が出来た。今年から作付である。スージーが遺伝子操作で作った作物の種子を畑、水田に植え付けをする。順調にいけば十分に領民の自給自足には達する。


 女は辺境候に、漁港を将来の領都にすることを提案する。領主は驚き、かつ喜んだ。女とトムと老人は、図面を見ながら夜遅くまではなしあった。


 女はエリカに名を付けてもらった。ユイと名付けられた。ユイはエリカに医術をならった。薬草を作り、医療ポーションを作った。トムにはユイの変わりようが奇蹟のように思える。最初はユイを人間とも思えなかった。今は普通の人間の女に見える。


 漁港は2期目の工事にはいった。河川同士をつなぐ運河の建設である。女神エリカの協力があるとはいえ、大規模な工事である。多くの工事関係者が集められた。総責任者のトムのもと、ユイは図面・積算関係で力を発揮した。工事の進捗と同時にユイの立場も、辺境候の信頼を得て、確固足るものになっていった。船舶も外洋に乗り出せる商船や軍船も揃ってきた。湾岸設備もユイ主体で大規模なものに変わっていった。


 湧水池に船を浮かべる。スージーが独特の節で歌を唄う。

 からびとの、ふねをうかべて、あそぶちょう、きょうぞわがせこ、はなかづらせよ、

 はなながす、せをもみるべき、みかづきの、われていりぬる、やまのとおかた、

 トムが笑いながら、野の花で編んだ、花の髪飾りをエリカにわたす。エリカは顔を赤らめ、素直にこうべを、たれる。トムがはなかづらをエリカの頭にとりつける。

 こうして、ここに住めるのも僅かだと思っている。エリカたちは、やりすぎた。王国と辺境候の立場は逆になりつつある。運河は物流を根本から変えた。スージーの遺伝子操作の作物は、それ自体が巨大な利権を産んだ。トムの指導した船作りは、すぐに大型の軍船を産み出した。魚介類は国の市場に、溢れんばかりに、出回っている。なぜ、その結果が戦争を誘発するのだろう。エリカは悲しかった。


 ユイは辺境候の側近になった。エリカやトム、スージーは、ユイと役目を交代して、この大陸を去る決意をする。人間がいるのは、この大陸だけ。魔獣の大陸で街を作り、戦争と無縁の生活をしたい。ユイには話している。ユイはこの世界の女神。エリカは所詮旅人。オブザーバー、会議で議決する権利はないが、参加できる傍聴人にすぎない。トムはこの世界に居場所を無くした人間のみ連れて、新しい開拓地を作る積もりだ。


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