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転生  作者: まつ
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16

魔法のない世界に転生して16


 トムは魔獣の真っ只中で、熟睡した。勿論最低限の防御はしている。1ヶ月以上も一緒に行動していると、抜くべき力と警戒すべきことのたてわけが、解ってくる。もちろん魔獣はトムにとって敵であり、友人でも知り合いでもない。油断すれば、かれの肉体は魔獣の胃袋の中だ。かれの安らぎは、魔獣の影の中。


 魔獣に対するかれの攻撃技術は、僅かの間に上昇した。魔獣の影に隠れて生活することに、苦にならなくなり、日常となったとき、魔獣を狩ることも日常になった。そのなかで気配を偽ること、擬態することを覚えた。そして魔獣の弱点、急所の線がはっきりと見ることが出来るようになった。そしてそれは生物だけではなかった。非生物であっても存在する。トムがその線に添ってナイフを入れると、あらゆるものが崩壊する。トムはそれを死線と呼んだ。トムはあらゆるものの影に隠れて生きる。どの様な暗闇の中でも死角はある。闇の中にも影がある。そして物体が動けば、気流も流れる、臭いも動く。気配は消そうと思うから、隠しきれない緊張が表に出てくる。気配のない緊張、気の流れ、おさえこむ闘気、、はやる気持ち、いまかちがうか、迷う気持ち、気持ちを切り替えて、いまが機会と思った瞬間、すべてが、トムが魔獣の前で作る事が出来きる感情。見せることの出来る偽物の感情。それらをあらぬ方向から、魔獣に唐突に見せることのできる技術をトムは手に入れた。


 トムは洞窟の中の様子を克明に記憶する。トムが神に召喚されたとき、神はけんぞくしんとしての役割を果たすのに十分な能力と、強靭な肉体をあたえてくれた。この洞窟の中でも、一度通った道を忘れることはない。相互の位置関係は正確に覚えている。


 トムによる地下の魔獣の支配する地域の詳細な報告は、リアルタイムで女神エリカに報告されている。エリカはそれを聞き流しているだけではない。しかし今はデーターを集める以外のなにもできない。


 地上では土壌浄化が進んでいる。浄化が進んだ土地では、スージーが考えた汚染に強い穀物の苗の植え付けが行われている。勿論スージーは、まだ幼女、人前に立つときだけ、17歳の少女に姿を変えている。神のけんぞくだからこそ出来るみわざである。


 トムは金属採取を洞窟の調査と同時に行う。将来、トム以外の人間が、この空間に入れるとは思えないが、鍛冶師としてのトムが貴重な金属を求めて、ふたたび来ることになるかもしれない。真っ暗闇の空間で、ハンマーとタガネを打つ澄んだ音のみが、反響して響き渡る。


 植物採取もエリカに依頼された仕事のひとつだ。植物採取には多くの可能性がある。食料の遺伝子操作、薬の新薬開発、一般の人間にはむりだ。しかし神とそのけんぞくには可能となる。


 洞窟は大陸中に張り巡らされているようだ。さまざまな所に出入り口があり、世界中の魔獣が自由に移動出来る。トムは自分の直感に従い、いくつかの出入り口を探査して、位置情報をエリカに伝えた。この世界の秘境、人跡未踏の地ばかりだった。トムは一度帰ることにした。さすがに人恋しくなった。


 ここは洞窟から直接出口に延びている狭い洞窟のひとつ、トムは魔獣と戦いながら下界にたどり着いた。外は緑豊かな秘境。目前には四方に壁がそびえたっている。仰向けになって寝ると、丸い真っ青な空が遠くにみえる。


 指先に力をいれる。少しずつからだを垂直な壁のうえに運んでいく。足場があった。一休みできる。ほっとする。収納袋から干し肉の携帯食を取りだし、なべにいれる。壁に群生する植物も採取する。おいしそうだ。石段の狭い平らに火を興し、肉と穀物と香辛料の植物をいれて、ぐずぐずと煮込む。下で採取した果実の果肉の臭いが鼻孔をくすぐる。


 トムは魔法のないこの世界で、快適な旅をおくるための、便利なアイテムを神より預かっている。その一つは熱源である。どのような環境下でも、料理をするための熱源である。勿論暖房にもつかえる。鍛冶作業にも使える。簡単に鉄の融解温度をえられる。鉱石からの製錬にもつかえる。水の蒸留にも使える。無限の熱源である。


 このアイテムのお陰で、どのような状況でも、トムは料理に手を抜かない。食材もこの魔獣の世界で、集められるだけ、集める。地上に戻ったとき、きっと役に立つと思っている。


 垂直の壁面はまだ登り始めたばかり、今日で二日目、所々にハーケンを打ち込み、万が一のため宿泊出来る拠点を作り上げる。もう一度この壁を降りる可能性もある。まだ壁の向こう側の世界を見ていないのだから。トムは臆病だ。これから遭遇するすべての可能性を考えて物事を進める。


 果実をつけた植物を発見した。残念ながら毒をもっている。トムは休憩しながら毒を無効化する方法を考える。トム自体は強靭な肉体を持っているので、一度経験した毒なら無効化することは簡単だ。しかし調理、下処理で一般の人でも、美味しく食べられるようにすることも可能だ。トムが毒処理を考えるときは、それが可能の場合が多い。トムの直感なのだ。そして毒処理の方法も、調理法として増えていく。


 果実の毒も医師としてのトムにとって興味を引く。毒と薬は使い方ひとつである。毒が患者の体内に入った場合の、治療方法の研究は常に考える。トムの強靭なからだを利用して、わざっと毒を吸収して、分解させ、抗体をつくることも出来る。とにかく今は壁登りの途中だ。トムは油断することなく、高度を稼いでいく。


 鳥が襲いかかてきた。気配がしたので、あらかじめ用意はしていた。出会い頭、鳥の精神を乗っ取った。このまま使役しても良いが、夕食のご馳走に決定した。卵が豊富にあった。最近、いままで出来ないことが、急に出来るようになることが多い。念力もその内のひとつだ。


 鳥の巣を丹念に調べると、人間一人がはいれる洞窟があった。すぐに行き止まりだが、中は割合広く、少し手を加えると、10人程度の家族が暮らすのには、充分な広さがある。今日の宿はここに決めた。炉を作り、住居環境を整え、夕食の準備をする。今日は鶏肉を焼く。卵料理も加える。毒のある果実の毒抜き方法もわかった。


 今日は朝のうちに、距離を稼ぎたい。昨日は快適な住居を見つけたので、すこし遅れている。


 こうして少しづつ登っていると、平面に見えた絶壁も、多くの動植物が生活していることがわかる。トムには宝の山にみえる。きっと雨露しのげる洞窟もまだあるのに違いない。探索を続けながら、かなりの広さを持つ棚を発見した。貴重な植物が群生している。根絶やしにしないように、植物を採取する。


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